英雄のプレリュード



「出ていけッ!」

酷い怒鳴り声と扉の閉まる音に肩を跳ねた。

「言われなくても出ていってやるよッ!」

締め出されたにも関わらず反抗的に扉を蹴り上げながら暴言を暴言で打ち返す様に唖然。そうして立ち竦んでいれば当然相手も視線を感じ取って当て付けとばかりに振り返って睨みを利かせる。……下校の時刻に見かけた目つきの悪いあの少年だった。

「またテメーかよ」

ラディスはきょとんとする。

「……あ」
「は?」
「覚えててくれたんだね」

にっこりと笑う。

「嬉しいよ」
「別に嬉しくも何ともねーだろ」

正論を返されてしまった。

「気持ち悪ィヤツ」

追い討ち。

「……何処に行くんだい?」

そのままこの場を立ち去ろうとするので思わず呼び止めてしまった。

「は? 関係ねーだろ」
「う、うん」

その少年は眉を寄せる。

「媚びなら売る相手間違えてんぞ」

ズボンのポケットに手を突っ込みながら。

「……俺には何もねーから」


言い返せなかった。


「大体。てめぇ他人に興味ねーだろ」

ふんと鼻を鳴らして背中を向けながら。

「名前だって覚えてねーくせに」


止める言葉すら思いつかなかった。

酷い言われようだが確かに的を射ていて。


クラスメイトのはずなのに。

名前が分からない。


「、!」

ポケットの中の端末が振動して。

「もしもし」

親からの電話。

「大丈夫」

朗らかに笑って答える。

「今から帰るよ」
 
 
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