英雄のプレリュード
扉を開く。足を踏み入れる。
「──ようこそ。親愛なる
扉の先は全面白塗りの推定四百メートルはあろう面積の一室でラディスは目を眩ませながらも正面に向き直るよりも先に出迎えた声に釣られて天井の角のスピーカーに目を向けた。
「まずはこの未来ある実験に進んで自らを差し出す勇気ある申し入れに感謝しよう」
声は聞こえるが肝心の姿は見当たらない。恐らくこれは全面ただの壁に見えてマジックミラーのように声の主からは此方の様子が窺えるのだろう。
「ラディス」
トキの呼ぶ声にラディスはようやく正面を見る。
「、!」
乱れた黒の中に本来の種族を示すかのように垂れる黄金色の髪。傷だらけの腕や顔。自身の状況に対する恨みかはたまた何の為にここを訪れたかも分からない自分たちを見て嫌悪感を抱いたか、虚ろで鋭く荒みきった
「く、クレシス君……?」
答え合わせかのようにメルティが呟いた。
「誤った認識をされては困る」
スピーカーを通じてその声は小さく笑いながら。
「それの名前は実験体0025号だ」
「──違うッ!」
ルピリアは即座に噛み付いた。
「その人は私たちのクラスメイトのッ」
「まるで幼き日々を共にした唯一無二の親しい友であるかのように庇うじゃないか」
その言葉にルピリアは思わず下唇を噛んだ。
「いや……それとも」
紙を捲る音。
「記録にないだけで情報に齟齬が?」
暫しの沈黙の後で息つく音。
「確かめてみよう」
その時の様子が何処となくわざとらしく窺えたのは勘違いなどではなかったのだろう。
「……実験体0025号」
長い睫毛の下で双眸が擡げる。
「彼らに見覚えは?」
「クレシス君!」
質問を投げかける若い声を掻き消す勢いで。どうか応えてくれとせがむようにルピリアが声を上げた。ラディスはちらっとトキの横顔を見たが頼りの彼の面持ちからある程度想像が付く。
「……知らねェ」
だからこそ、冷静に。
それでいて驚かなかった。
「誰だ。……テメェら」