英雄のプレリュード
ラディスは唯一設けられた扉に歩みを進めるとドアノブに手を掛けた──この時の自分の行動はあまりにも軽はずみだったかのように思う。例えば触れた瞬間に毒針が飛び出して今よりも深刻な状況に陥ったかもしれないし或いは仕掛けが作動して上から下からとんでもないものが明確な殺意を持って。……
「あれ」
ラディスは目を丸くした。
「どうしたんだ」
「……てる」
メルティを慰めていたルピリアも思わず「えっ」と声に漏らして顔を上げて注目する。
「鍵が空いてる」
聞き間違いなどではなかった。
「ほ、ほんと──」
「罠だわ!」
思わず手指を組んで希望を見出すメルティに反してルピリアはその台詞を遮るように言い切った。
「何か企んでいるのよ!」
「そう思う」
ラディスは冷静に。
「かと言ってどうする?」
その言葉にルピリアは思わず口を噤む。
「警戒するに越したことはないよ。でもだからってこのままこの場で籠城を決め込むつもりかい?」
思わぬ選択肢に不安を滲ませながらメルティと顔を見合わせるルピリア。一方でトキは黙ってラディスの隣まで進み出ると扉を静かに見据えた。その内に彼の瞳がほんの一瞬だけ金色に染まったと思うとこの部屋の仕掛けに反した罰なのか突如として襲った頭痛に瞼を固く瞑り頭を抱えてその場に跪く。
「トキ!」
「お前の言う通りのようだ……」
幸いにも頭痛は長くは続かなかったようでトキは過度な心配をさせまいと立ち上がるとその身を案じるラディスに片手を軽く挙げることで断って続ける。
「部屋の外で男が一人待ち構えている」
その台詞には疑問符が浮かんだ。
「私の視た断片的な未来がここに繋がるとはな」
次いで過る最悪の予感。
「どういうこと?」
「だっ……大丈夫なのよね……?」
冷や汗を流すルピリアとメルティに。
「分からない」
……ただ。
「ここから先は」
ラディスは改めてドアノブに手を掛けながら。
「自分の目で確かめた方が良さそうだ」