英雄のプレリュード



……どのくらい眠っていたのだろう。

夢は見なかった。一説によると人が寝ている際に見る夢というものは眠りが浅いことを示しているのだとか。そう考えると自分はこの状況にも関わらずぐっすり眠りこけていたというわけか──或いは見た夢の内容があまりにも薄すぎて忘れてしまったか。

夢に出てくる人物や風景は自分が人生で関わったものだとも聞くがそれにしたって記憶に残らないということは自分が忘れっぽいというより如何にこれまでの人生を味気ないものとして人物も背景も記憶に刷り込ませなかったのかが分かる。


思っていたよりも。

つまらない人間だったんだな。自分って。……


「……駄目だ」

トキの声が聞こえる。

「この部屋の中では全ての能力が強制的に無力化、及び遮断されるらしい」

それを聞いたメルティが泣き崩れた。

「どうしよう……私が捕まっちゃったから……!」
「貴女のせいじゃないわ」

ルピリアは否定した後で表情に暗く影を落とす。

「……私の」
「誰のせいでも……ないよ」

そこでようやくラディスは上体を起こした。

「ラディス」

駆け付けたトキが身を案じる。

「……すまない」
「謝らないでくれ」
「私が未来予知出来ていれば」
「君のその力がどれだけ万能でも未来はその場その時の状況次第で毎分毎秒すり替わっていく」

ラディスはハッキリと否定した。

「君のせいじゃない」


……さて。メルティの啜り泣く声だけが響く中ラディスは状況確認をするべくトキの手を借りながら立ち上がった。自分たちの閉じ込められている一室は照明器具すら備わっていないようで暗くそれでいてシンプルで情報を得られそうなものは何もない。

分かるのは──こんな何の為に設けられたのか分からない部屋でも空気が循環していることくらいか。かといって天井に見つけた空気口から脱出を試みるのはあまりに無謀すぎる。自分たちの体がもうひと回り小さければ話は変わったのかもしれないが。

「、……」

ラディスは先程耳にした話の真偽を確かめるべく自身の手のひらを見つめて集中したが青く小さな閃光が線香花火かのように弱々しく跳ねるだけで何の頼りにもならなかった。視線を感じて顔を見合わせてみればトキは静かに首を横に振って。

これは。……思ったよりも深刻な状況だな。……
 
 
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