英雄のプレリュード
防護服の男は頭を下げて承諾の意を示した。
「はっ」
だがしかし。
「侵入者の詳細は?」
その事態に興味を示し口を挟んだのは。
「詳細は?」
唐突に質問を投げかける青年に防護服の男は暫し呆気に取られていたが質問を繰り返されれば我に返ったようで博士と呼んだ男にアイコンタクトで指示を煽った後ゆっくりと口を開く。
「……学生です」
「具体的に」
「近辺にある高等学校の制服を着込んだ男子生徒が二人と女子生徒が二人」
青年は先程までとは打って変わってこの事態に興味津々のようで顎に手を当てながら何やら思考を巡らせた後で口元に薄笑みを浮かべると。
「……ちょうどいいじゃないか」
その場に居合わせた全員が。
身の毛も弥立つ悪寒を直に感じ取った。
「博士」
青年は振り返る。
「指揮を取らせて頂いても?」
こうなると止まらないのは熟知している。誰よりも若造である彼の出しゃばりを止められる者は博士も含めて誰一人居ない──今日だってたまたま居合わせたなどではなくわざわざ遠方から"来ていただいた"のだ。博士と呼ばれた男は他の男たちの視線を一身に浴びると諦めたかのように溜め息を吐いた。
「好きにしなさい」
それ以外の返答が認められるはずもない。
「感謝します」
靴音高らかに踏み出す。
「侵入者は?」
横切る直前に顔も名前も何もかも知らぬ存ぜぬ研究者の一人に自分がそれまで周囲に合わせて成り行きで手にしていた資料と呼ぶのも憚れる紙切れを半ば押し付けるようにして預けながら。
「PM実験室直通の暗室に」
投げかけた質問に対する防護服の男の返答に。
「成る程」
青年はくつくつと喉を鳴らして嗤う。
「悪くない選択だ──」