英雄のプレリュード
……ああ、……最悪だ。
俺としたことが言い付けの最中に眠っていた。
いや。……実の両親でも何でもない単なる見栄と媚び売りで適当に年端もいかない子どもを引き取って知性の欠片もない暴言と力のない人間の精一杯の暴力に一日の半分を費やされる日々と比べれば遥かにマシな境遇か。ここじゃ適当にジジイ共の悪趣味に付き合ってりゃ当たり前に三食の飯が出る。
……幸せってのは。
こういうモンを言うんだっけな。
「……なぁ」
一点の曇りもない白く四角い部屋の中。透明な硝子を挟んだ隣の部屋では白衣に身を包んだくたびれた髭面共が忙しなく。隣で地べたに座り込んで壁に凭れ掛かるようにして項垂れている同類に声を掛けてみたが一切の返答はなく沈黙。
お人好しに構ってくれていたコイツが急に無視を決め込むのもおかしな話だと覗き込んでみれば納得。不思議とそれでショックは受けなかった。
「先に逝きやがって」
絶望に濁る正気のない双眸を目に小さく呟く。
「──実験体0025号」
不意に名前を呼ばれて振り返る。
「お目覚めかね」
不快な声はスピーカーを通して聞こえてきた。
「0020号は、……そうか。では早急に実験体0020を回収後0025の実験を行う」
白い防護服を着込んだ野郎共が入ってくる。
「あーあ。腐ってるぜコイツ」
男の一人がぼやく。
「さっさと焼却炉に運ぶぞ」
見慣れた光景。聞き慣れた言葉の羅列。
「ッが」
管の繋がれた特殊な首輪に絞め付けられる。
逆らうように自然と漏れ出した黒の閃光が鳴き声を上げて騒ぎ立て始める。まるで花火のように弾けてまだ室内に残る男たちに被弾する様を硝子を挟んだ向こう側でジジイ共が記録に励みながら。
「おおぉ……!」
「実験体0025の力は素晴らしい……!」
痛い。体の内側が焼ける。
皮膚の表面が引き攣って千切れそうな感覚。
それでも。俺は。
「この研究が完成すれば──」
これが。こんなモンが。
幸せなのだと信じてやまない。……