英雄のプレリュード
扉を半分程開いて周囲を確認した後、通路に出る。
「ご……ごめん……」
話の通り目的の場所へ辿り着く為の経路は未来予知によって把握しているのだろう一人通路の先を行くトキの背中を目にメルティは相変わらずルピリアに寄り添いながら申し訳なさそうに口を開く。
「私、余計なこと……空気、悪くしちゃったかも」
「しょうがないでしょ何も知らないんだから」
「でもぉ……」
こそこそと話す彼女たちの少し前を歩いていたラディスは何となく見兼ねたのだろう歩く速度を緩めてルピリアの隣に並ぶと。
「トキのお兄さん」
「え?」
「未来予知が使えないらしくてね」
脳裏に浮かぶ──彼の兄といえばミュウツーの種族にしては珍しい
「だからって……なんで遠慮なんかするのよ」
ルピリアは訝しげに訊ねる。
「トキが分家のポケモンだからだよ」
ますます疑問を抱いて眉を顰めていれば。
「じゃあ、お兄さんは……?」
訊ねるメルティにラディスは静かに頷いてみせる。
「……宗家のポケモンだよ」
過去に先祖が犯した大罪を償う為にメヌエルだけじゃない"この世界"の為に代々働きかけているのが彼らブランの一族。通常宗家がミュウで分家がミュウツーといった具合に振り分けられるらしいんだけどそれでも偏りがあった場合は例え兄弟でも別々にされてしまうらしくてね。
その最たる例がトキとそのお兄さんなんだ。
「特に宗家の重圧は凄いらしくて──日々の生活も何も離れ離れになって暫くして顔を合わせたら別人のようになっていたのだと本人が話していたよ……それまでは仲睦まじい兄弟だったのに」
ルピリアもメルティも思わぬ衝撃に言葉を失う中でラディスは話を続ける。
「それを知っているからこそ、自分が未来予知を使えるのだと話した瞬間お兄さんにどういった仕打ちが待ち受けているか容易に想像が出来て──トキはだんまりを決め込むことにしたんだ」
その話題の中心人物である本人が相変わらず黙って先を歩くのを言葉を投げかけられるはずもなく。
「分かったかい?」
「……でも」
ルピリアはふと疑問を口にする。
「それって本当に正しいことなのかしら」
宗家も分家も知らなかったまだ幼い頃の血を分けた兄弟の心優しい一面を知っているからこそ、その立場を奪い上げて貶めるようなことはしたくない──そうして直向きに兄を想う彼の気持ちは痛いほどに理解できる。……でも。
「だってそれは逃げていることにならない?」
きょとんと目を丸くするラディスに。
「もし……例えば次に生まれた自分の子どもが同じ未来予知の力を受け継いでいたとしたら──」
そこまで食い気味に語った後で。
実際に未来予知を使える彼を前にあれこれと仮説を立てる自分が途端に愚かしく思えて目を逸らす。
「……何でもないわ」