英雄のプレリュード
視線を遣ればトキは虚空を見ていた。
いや。──"視ていた"のだ。
紫苑の瞳が紅蓮の焔に染まりじっと何かを見つめている──事態を察したラディスが緊張した面持ちで口を閉ざしてトキに注目すると、流石のルピリアとメルティも息を呑んだ。
「……トキ」
暫くして紅蓮の色が落ち着き紫苑の色にゆっくりと目の色が戻ったのを見てラディスは話しかける。
「今のは未来予知かい?」
トキはおもむろに顔を向けて。
静かに、頷く。
「五分後に見回りの男たちが入ってくる」
ルピリアもメルティも声を上げそうになった。こんな所に居るところを見つかってしまったら外で見つかった時より言い訳が付かない。心臓が跳ね上がる緊張感の中予知した本人は終始顔色を変えずに。
「移動する必要がある」
「経路は?」
「視えている」
トキは立ち上がると扉を見つめた。
「早急に移動しよう」
「ね、ねえ」
メルティは不安そうにルピリアに寄り添いながら。
「トキ君って未来予知は使えないんじゃ……」
未来予知は極一部のエスパータイプのポケモンだけが使えると言われている特殊な能力。その極一部も年々数を減らし今では伝説や幻といった括りのポケモンにしか扱えないという噂。
そう──その噂の域を出ないレベルに希少な能力であるそれを使えないとされていたはずの彼が使えるというのだ。近年自称する者は多々あれど彼だけはこんな時に嘘を言うような人ではないはず。
「……どういうこと?」
メルティの発言にルピリアは訝しげに眉を寄せたがその一方で唯一事情を知っていたラディスが黙ってトキの背中に視線を投げかければ刺さる視線に堪え兼ねたのやらトキは振り返って苦笑気味に。
「そういうことにしているんだ」
憂いを帯びた表情に。
これ以上は問い質せるはずもなかった。
「色々あるんだよ」
代わりに話を着地させたラディスは進み出ながら。
「行こう」