英雄のプレリュード
反射的に閉ざしていた瞼をそっと開く。
「……え」
一転して暗い一室の中。埃の匂いに咽せそうになりながらもルピリアは口を開く。
「ここ、どこ……?」
その質問に答えたのはトキだった。
「建物の中だ」
遅れて瞼を開いたラディスはまずは状況確認をするべく辺りを見回す。瓶だの分厚い本だのが混在する棚が一定間隔で置かれているこの場所は恐らく倉庫のようなものなのだろう。
「テレポートかい?」
「ああ。……勝手なことをしてすまない」
謝るトキにラディスは首を横に振った。
「助かったよ。ありがとう」
「……男の人たちは?」
メルティは不安げに訊ねる。
「彼らの事なら心配は要らない。少々荒いが私たちの居る場所とは座標をずらして飛ばしてある」
「そ、そうなんだ……トキ君凄いのね」
何の気なしにその能力を褒めたつもりだったのだ。けれどそれを聞いた当の本人は憂いを帯びた表情を浮かべながら言葉を返す。
「ありがとう」
「え?」
メルティは怪訝そうに首を傾げた。
「これでもう後には引けなくなったね」
本題に話を引き戻すように言ってそれまで膝を付く姿勢だったラディスはゆっくりと立ち上がる。改めて見回してみても今現在この部屋には自分たち四人以外誰も居ない様子。出入り口と見られる扉自体は見つけたが一旦様子を見た方がいいだろう。
「……それで」
ラディスは振り返る。
「どうして彼がここに居ることを?」
遅れて立ち上がったルピリアが答えた。
「……彼の両親から話を聞いたの」
「わざわざ直接聞きに行ったのかい?」
ルピリアは首を横に振る。
「盗み聞き、だけど」
彼女の話によると、こうだ。
いつもの学校の帰り道に引っ越し作業をしている様子である彼の両親を見かけたのだそう。自主退学の上で引っ越しなんてよっぽどのことだろうと思ったもののせめて挨拶くらいはと思った矢先。
「最後の最後に親孝行してくれて助かったなぁ!」
父親と思しき男の発言に足を止める。
「こんな大金になるなんて!」
「もっと早く引き渡しておけばよかったかもな」
木の影に隠れる。
「親戚のよしみで引き取っただけだったけどほんと生意気で図々しくて邪魔だったんだもの!」
母親と思しき女は男の腕に抱きつく。
「さ。早く行きましょ!」
「研究所飛び出して戻ってこられても困るからな」
男は笑う。
「もう戻ってこれねえか! ははは!」