英雄のプレリュード
街から住宅地までを繋ぐ道から大きく外れた森の奥深く。切り開かれた地に三メートル程の高さはあるであろう電気柵で厳重に囲われた巨大研究施設──『アルフェイン研究所』はある。
白塗りで角張った建物周辺には数メートル置きに警備員と思しき白い防護服を着用した人間が配置されており、未来を担うトレーナーに与える旅のパートナーを育成している施設にしては些か大袈裟すぎる気もするがその認識で間違いないことだろう。
と──今しがた防護服の男二人が二言三言、声を潜めながら何やら言葉を交わしたかと思うとその一方が建物の中へと消えた。もう一方の男は袖を捲り腕時計を確かめると深く息を吐き出して。
「……ぐっ!?」
その油断が命取りとなる。
「ほ……本当にやっちゃうなんて……」
一瞬の隙を見て物陰から飛び出し、男の首後ろに踵落としを入れて意識を落とすことに成功したのはなんとルピリアだった。あれだけ反対しながらも結局は親友たる彼女を見放すことなどできるはずもなくついてきていたメルティは引き気味に呟く。
「彼らの罪に比べてみれば易しい方だわ」
手を叩いて鼻を鳴らすルピリアに。
「こんな……厳重注意だけで済むのかしら……」
メルティはぐるぐると目を回しながら頭を抱えて。
「単位没収? それとも退学──」
「気が変わったなら帰っていいわよ」
「ちち、ちょっとぉ!」
歩き出す彼女に気付いて慌てて追いかける様はまだまだ年相応に子どもである。
「私が親友を見捨てるわけないじゃない……!」
「心配ごとは本心でしょ?」
「そうだけどぉ……!」
建物の角に身を潜めて次の見張りの動向を窺う彼女らの無防備な背中に忍び寄る影。そうして目の前の敵を片付けたからといって油断しているのがいけなかったのだ──気配に気付いたメルティが二度見をしてルピリアの袖を引いたが直後降りかかる。
「っ……!」
痛みらしきものは感じない。最もそれすら感じないよう配慮してあの世に送ってくれたなら話は別だが──しかしそれもまた当てが外れたようで二人がそろそろと瞑ってしまっていた瞼を開けばタイミングを見計らったかのようにバールのようなものを振り翳していた防護服の男が痙攣しながら倒れ込んだ。
「い……生きている、よな……?」
「大丈夫だよ」
聞き覚えのある若い男の声が二つ。
「手加減しておいたからね」
ルピリアはその声の正体に呆気に取られる。
「怪我はしていないかい」
そんな彼女の代わりにメルティが名前を呟いた。
「……ラディス君……トキ君……」