英雄のプレリュード



次の日も。……その次の日も。

同じクラスの一員なのだから顔を突き合わせる機会は幾らでもあったがルピリアはその都度そっぽを向いたり会話が発生しても必要最低限で一言二言で終わらせたりとあからさまな態度を示した。取り巻くクラスメイトは苦言を呈することもあったが対するラディスもこればかりは当然の反応だろうなと思いつつ苦笑気味に制しながら。


淡々と。坦々と。

予定調和のような日常に抗いもせずに。……


「ぁ」

その日は何となく昼食は購買のパンにしようと思い立って朝から弁当も断っていた。人気の惣菜パンを奪い合うつもりもなかったので急ぐ生徒より遥かに遅れてのんびりと。そんなことをしていれば購買の前から生徒の群れが離れる頃には揉みくちゃにされた情けない姿の残り物しかないわけで。せめて空腹を満たすだけのことをしてくれたらいいなとぼんやり思いながら手を伸ばせばまるで少女漫画かのように他の生徒の手が触れたのだ。ラディスが釣られて顔を上げれば慌ただしく手を引っ込めながら。

「すすすすっ……すまない、……」

藤色の髪。紫水晶の瞳。中性的な顔立ちだが男性でその上長身で目立つ割には控えめな性格──


流石に覚えている。

彼はクラスメイトのトキ・ブランだ。


「、え」

ラディスは何の気なしに譲られた惣菜パンを手に取って差し出す。首を傾げてみたがぶんぶんと勢いよく首を横に振って受け取る気配が見られなかったので失笑してしまいながら購入することにした。トキはその様子を目に安心したように胸を撫で下ろすと少しの足しにもならなそうなパンを手に取って。

「あぁ待って」

双方共に会計を終えて解散──の前にラディスはその場を足早に立ち去ろうとしたトキの背中を叩いて振り向かせると先程の惣菜パンを差し出した。

「これも」
「いやいやいや……!?」
「じゃあそっちと交換してもらえるかい?」

値段は然程変わらなかったはず。

「……あ」

トキは目を逸らしながら。

そろそろと差し出されたそれを受け取って。

「ありがとう……」

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