うちの弟がクソガキすぎる



……というわけで。

「ドキドキ! プライドを賭けた最強チェス頂上決戦ーっ!」


………………………………。


「ノリ悪くない?」

ええぇ……

「遊びのつもりで来てはいないからな」

レイアーゼ中央司令塔二階、いつもの会議室。

拳を振り上げるクレイジーに既に着席しているロックマン含む観戦枠のフォーエス部隊の面々は冷めきった表情プラス無言。文句を言われたところで此方も知らず知らずの内に敗北したら全国生放送で解散宣言をすることになっていたのでミリも笑えない。

「つまんない奴ら」

クレイジーはロックマンの向かいに腰掛ける。

「……ま」

テーブルの上に頬杖を付きながら。

「負かし甲斐があるけど」


──本気だ。


いや自分だって本気であることに他ならない。だが相手も相手で手を抜くつもりでないことはその目を見れば嫌でも分かる。……あれは。


手指で転がして遊ばせて。

弱ったところを残酷に貪り食う悪魔の目──


「ルールの説明は──」
「先にキングを取った方の勝ち。それ以上でもそれ以下でもないでしょ」

審判の役であるマークは咳払いをした。

「……準備はいいかい?」

普段は会議室と使用しているこの一室も今回の為だけに横長のテーブルを部屋の端に移動させた上で中央にチェス盤の模様が施された専用の四角いテーブルを配置。そのテーブルを挟んで向かい合わせで置かれたアンティークな椅子に腰掛けた両者を壁沿いにぐるりと囲った観戦枠のフォーエス部隊の面々が見守っているという状況。

「クレイジー。本当にいいのか?」

マスターはクレイジーの後ろから声を掛ける。

「なんだよ兄さん信用ならないのかよ」
「まさか。お前の手を煩わせるまでもないのに」
「もーそんなこと言わないで?」

後ろから触れる右手に頬を擦り寄せながら。

「僕は兄さんの弟なんだからさ」


イチャイチャしやがって。


「やぁだ。兄さんくすぐったいってば」

飛び交うハートがジト目で見守るロックマンの頭の上をこつんと跳ねる。

「不適切な行為は感心しないな」
「冷たいこと言わないでよ。嫉妬?」

マークは困り果てたように眉を寄せる。

「クレイジー」

マスターは囁いた後で、愛おしそうにクレイジーのこめかみに口付けを落とす。

「期待しているよ」


これは"ブラフ"だ。

後々の展開を盛り上げる為の。


「もちろん」

そうしてようやく向き直ったクレイジーは。

「じゃ、始めよっか」

口角を緩く持ち上げて笑みを浮かべる。

「……相手してやるよ」
 
 
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