うちの弟がクソガキすぎる
糸が切れたように笑い出したのは。
「くっ……くく……っ」
マスターは腹を抱えながら。
「事態に気付いて焦燥感に垂れる冷や汗。取り返しのつかない盤面に血色が抜け落ちていく様。最愛の兄の前で敗北したことによる屈辱と迫り上がる吐き気に青ざめる顔……」
うつ伏せていた顔をゆっくりと上げれば。
「極め付けは赤く染めた頬を濡らしながらそれでも尚反抗的に睨み付けるあの目!」
背筋を凍らせる狂愛に満ちた恍惚の表情──
「ははっ……期待以上の成果だ!……いいだろう。約束通りお前の望むものを何でも創ってやる」
マスターは一頻り笑った後で満足げに空いた椅子に腰掛けると足を組んだ。
「さあ。お前の要求を聞こうか」
「せっかくだが遠慮させていただこう」
……えっ?
「ちょ、隊長!?」
「一体何を考えてやがる」
この世で生み出せないものなどあるはずもない創造神マスターハンドが自ら提案したまたとない権利を──混乱と困惑に騒ぐ声に揉まれながらも考えを曲げるつもりでない様子のロックマンを目に真意を見抜いたらしいマスターは
「……よろしい。この借りは覚えておこう」
意味深に言って立ち上がる。
「帰るぞ。お前たち」
そうしてようやくのこと嵐は去った。亜空間へ抜ける為の空洞が完全に閉じられた後で「行っちゃいましたね……」としずえが息をつくのを合図に随所で盛大な溜め息が吐き出される。
「……隊長! あれはどういう意味だよ!」
思い出したとばかりにパックマンが駆け寄れば。
「望むものを何でも創造するというのは創造神にしてみれば最上級の謝儀にあたる。であればここは敢えて見送り、いざという場面で交換条件として引き合いに出した方が得策だ」
成る程──まさかそこまで考えていたとは。
「あ……そう……賢いじゃん……」
パックマンが気抜けしたように呟けば。
「それに」
ロックマンは盤面を見つめながら。
「創造神にしてみれば破壊神と違って幾らでも打開策はあっただろうな。それを言及しなかったのは、あの場で素直に要求するのを見越してしっぺ返しを打つつもりでいたからに他ならない」
つまり。
此方の心もついでに折るつもりで──?
「この話はもう終わりだ」
ロックマンは椅子を引いて立ち上がる。
「お前たち。テーブルと椅子を元の位置に戻すぞ」
クソガキを分からせるという名目の元行われた──裏の裏を読む高度な頭脳戦。
「パックマン知ってるよ……隊長にだけは絶対絶対絶っっっ対に、逆らわない方がいいって……」
「多分それ知ってるのパックマンだけじゃないよ」
それから暫くの間ロックマン相手に無茶を言って困らせたり怒らせたりしないようにしておこうと隊員全員が一致団結したのは言うまでもない話。
end.
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