うちの弟がクソガキすぎる
──やられた。
「大丈夫?」
そんな声を掛けられてハッと顔を上げる。
「……なワケないか」
天空大都市レイアーゼ中央司令塔。
四階──フォーエス寮。
「……すまない」
自分としたことが仲間に気遣わせる程に暗い表情を浮かべて頭を抱え込むなんて──第四正義部隊フォーエス部隊の隊長を務めるロックマンは声を掛けてきたパックマンにちらりと視線を遣ったが、気まずそうに逸らして呟いた。
彼がこうも落ち込んでしまうのも無理もない。遡ること数時間前──他の隊員の任務遂行中に現れた敵対組織亜空軍に所属する偽物集団ダークシャドウとの戦闘に加勢したはいいが、もう少しといったところで彼らを指揮する頭領でもある創造神マスターハンドと破壊神クレイジーハンドが出現。あっという間に有利だった盤面を返されて見事に敗北──幸いにも被害は最小限に抑えられたがそれだって彼らが気まぐれに状況に満足して手を引いてくれたからである。極め付けは最後のあの台詞。
正義なんて語るほど能力が見合ってないよ。
クソ雑魚部隊さん?
「ま、住民側に大きな被害は出なかったんだし」
「怪我をさせたじゃないか」
「パックマン達のこと?」
俯きがちに頷くロックマンを目に溜め息。
「あの状況で隊長が機転利かせて前衛を避難誘導に回したからじゃん? 確かに怪我はしたけど大事には至らなかったワケだし寧ろあの人数で侵攻を食い止めただけ出来た方でしょ」
そうは言うが暗い表情は拭えない。
「……あーもー」
パックマンはいい加減痺れを切らしたように。
「真面目なのは分かるけどさぁ──」
その時。
「おわっ」
とてつもない地響きと爆発音。
「え、なになに」
通路の方からである。
「隊長っ!」
飛び込んできたのは剣を携えたルキナ。
「ちょ……何の騒ぎ?」
ルキナは呼吸を整えた後で。
「依頼人です」
ちょっと待て。
「お前……」
「依頼人を迎えるような音じゃないだろ!」
呆れ顔のロックマンと声を上げるパックマン。
「私は止めたのですが……」
彼女も人一倍に真面目な性格だ──今のこのロックマンの様子を知って誰かと対面する状態じゃないと判断しての行動だったのではないだろうか。それにしては壁の一つや二つ穴を空けていそうな物騒な物音がしていたが。
「いい。通してくれ」
ロックマンは溜め息を吐き出す。
「いいのかよ」
「せっかく足を運んでくれた依頼人の相手を此方の都合で追い返す訳にはいかないからな」
「──流石はロックマン」
この声は。
「わざわざ足を運んだ甲斐があったというものだ」
気付いたルキナは素早く部屋の中に入ると剣を構えて臨戦体勢。開け放たれた扉の先に見える通路は土埃に覆われており、一体何をどうすればそうなるんだと顔を顰めて目を見張っていればやがて声の主が土埃の幕を抜けて進み出る。
「な」
パックマンは顔を引き攣らせた。
「先程ぶりだな」
まさか。
「い……依頼人って……!」
その相手は微笑して答える。
「……俺だが?」
創造神マスターハンド──!?
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