キーメクスの審判
……やってるなぁ。楽しそうだなぁ。
「行こうぜ」
「えっ」
その光景に目を奪われていれば水を差すように腕を引かれるので思わず素っ頓狂な声が飛び出した。
「巻き込み事故なんざ御免だからな」
「や。でもほら楽しそうだし」
「ただの好奇心で首突っ込むようなことかよ」
だって。俺は。
「大事になる前にメシ済ませちまおうぜ」
陽の光に晒されても痛くない体。
双神の監視と呪縛から解放された体。
「どうしたんだよ」
生まれた時から皆が欲してやまなかった体。
強い執念でようやく手に入れた体──
「お前はフォックス・マクラウドだろ?」
水の中で泡を噴き出したような不快な音が。
「え、あれ」
遠く響いて気持ち悪い。
「俺」
苦笑いを浮かべて違和感に瞳を揺らす。
「フォックス」
そうだ。
「フォックス」
違わないはずなのに。
「俺は──」
ダークフォックス。
「え」
振り返る。いつの間にかそこには食堂などではない底の知れない闇が何処までも続いていて。闇の中に響いたその声が口にした名前は信じられないくらい魂に馴染んだもので。
「フォックス」
次にパートナーに呼ばれても。
当たり前に心が揺らぐことはなかった。
「フォックス」
──ダークフォックス!
「俺」
思い出した。
その声の主もこの感情の正体も。
「フォックス」
「気安く呼ばないでくんね?」
手荒に振り解いて笑う。
「俺。そいつじゃねーんだわ」
パートナーの姿が。
体の端から光の粒子となって失せていく。
「あーあ」
後悔などあるはずもなかった。
「抜け駆け失敗、かぁ」
足下から黒に呑み込まれて塗り潰されていく。
「ま、いいや」
頭の先まで余すことなく。
「へへ」
宵闇にひっそりと満足げな笑みが浮かぶ。
「帰ってやるかぁ」