キーメクスの審判
遠く。遠く。
名前を呼ぶ声がする。
「──フォックス!」
弾かれるように意識を引き戻されて。
「どうしたんだよ」
怪訝そうに声を掛けるその人を差し置いて目の前にあった鏡に映り込む自分の顔を見つめる。
「……いや」
違和感を感じる。
「俺って」
洗面所を後にして並んで歩きながら。
「フォックス・マクラウドだよな」
「……何言ってんだお前」
突拍子もない気を衒ったような質問にこの体のパートナーであるその人は気味が悪そうに眉を寄せた。
「事実確認だよ」
なんだ。
上手くいったんだ。
「変なヤツ」
コイツの体乗っ取れたってことは俺、抜け駆けってヤツじゃん。何をどーやったのかは思い出せねーけどヒトが真価を発揮する時は大抵記憶を丸ごとすっ飛ばすもんだって相場が決まってるし。
「元からだよ」
なぁんてソイツの声で。
冗談なんか言ってみちゃったりして。
「……はは」
ヤな感じがする。
「お」
いつの間にか他よりも大きな扉の前に居た。
見覚えがある。寧ろ、見飽きたくらいに。この先にあるのは会合としても頻繁に使われている食堂だ。週一かそれ以上のペースでお邪魔していたしうちの基地でもそうだったから間違えるはずがない。
「まぁたやってやがる」
そんなことをぼやきながらもいい加減に慣れたのだろうその横顔は楽しそうで。この体のパートナーは扉を押し開くと中に足を踏み入れた。
「ふざけんなよこの正義厨ッ!」
あーあー。これも聞き飽きたくらいに聞き覚えのある愛おしい声。リーダーだ。今にも噛み付きそうな勢いの彼を羽交締めにして食い止めているのは誰より忠犬であるアイツ。その横で楽しげにくすくすと笑っているのは"元"チームメイト。
「ふざけてなどいないさ」
なんて向かい側で宣うのは正義部隊の隊長サン。
「冗談で言葉を投げ打っては失礼だろう?」
「余計タチが悪いんだよッ!」