キーメクスの審判
"それ"と称されたのは。……
「巻き込まれたんだよ」
スピカは睨みを据えながら返す。
「そうなんだ」
クレイジーは全く気にも留めていない様子でゆっくりと進み出ると地面に横たわったまま動かないダークフォックスの頬に靴の側面を擦り合わせながら足を動かして顔を起こさせた。それが無反応と見るや否や「あーあ」と他人事のように。
「駄目だね。コイツ」
「みたいだな」
隣に並んだマスターは小さく息を吐き出す。
「作り直すか」
今、……作り直す……って。……
「クレイジー」
マスターが呼び掛けるとクレイジーはそれだけで意図を読み取ったのかそのまま左手をゆっくりと差し向けた。宵闇が犇く左目の奥には紅蓮の灯火がぼうっと浮かび上がり、能力の発動を予兆する。
……作り直す、ということは。
破壊神がそれに従って手を翳すということは。
誰もが終始無言のまま。依然として横たわったまま動かないダークフォックスに注目する最中。
「……何」
不意に能力の発動は中断される。
「邪魔なんだけど」
マークはハッと息を呑んだ。
「、ルフレ……」
ダークフォックスを守るように。先程まで愕然と立ち尽くすだけだった少女がいつの間にか彼の傍らに膝を付いてその体を強く抱き締めている──思わぬ展開にここでもやはり一同は言葉を失うばかりだったが自身の仕事を邪魔されたクレイジーは苛立ったように眉を寄せながら。
「お前。壊されたいの?」
ルフレは答えない。
「クレイジー」
再度マスターが呼び掛けるとクレイジーは一度振り返った後で向き直り「ああ」と納得する。
「お前も
創造する上であってはならないもの。
破壊の対象となり得るもの。
「それがなによ」
ルフレは小さな声で口を開く。
「それだけじゃない」
振り返る。
「それだけじゃないっ!」
溢れ出した大粒の涙が。
少女の頬を伝って滴り落ちる。
「好きだったの」
嘆く。
「初めてだったの」
訴える。
「この想いは嘘なんかじゃない」
叫ぶ。
「バグなんかじゃないっ……!」
思い出になるよりも。
無かったことにされることの方が。
ずっと──
「この人じゃないと意味がないの」
差し込んだ影が彼女の表情を隠しても尚。
「作り直したって」
静かに滴り落ちる涙は。
「お願い」
さながら、零雨のように。
「無かったことにするくらいなら」
私も。貴方も。……