キーメクスの審判
次の瞬間だった。
「坊ちゃん!」
咄嗟の判断で飛び出したパックンフラワーは呆然と見上げるジュニアの後ろに回り込むとその両目に手を被せて覆い隠した。その判断はまさしく英断といったところで他の誰も目を背ける暇もない中、創造神による制裁は下される。
上空に浮遊した半透明の水色のキューブ──それはマスターの右の眼の奥の暗い灯火に見据えられると瞬く間に縮小し、その中に閉じ込められていた少年少女を容赦なく圧し潰したのだ。中に居た二人がどうなったかなんてことは一瞬でどす黒く変色したそれを見れば嫌でも分かってしまう──その場に居合わせた何人かは口元を手で覆いながら愕然と。また何人かはあまりにも惨い事態に思わず目を背けた。
「兄さんったら」
クレイジーはその兄の隣に空間転移する。
「昔より短気になったんじゃない?」
揶揄いに応じず視線さえも寄越さずに。マスターはじっと残骸を見つめながら。
「……やっぱり……良くないな」
重く。苦しく。
息の詰まる空気感。
「大丈夫だよ」
クレイジーが言うや否や残骸の周囲に幾つもの薄い水色のウィンドウが浮かび上がった。
「視えちゃったってだけでしょ」
「……お前は優しいな」
翳した左手をくっと軽く握れば。
ウィンドウは途端に罅割れて消滅する。
「そうでもないよ」
クレイジーは口元に笑み。
「今、最っ高に最悪な気分だから」
ぞわりと。
きっとその場にいる誰もが全ての感覚を失ったかのように動けなくなっていた。
「な……なん……で」
地上に残された猫っ毛の少年は生きていた。次の瞬間目前に空間転移で現れたマスターとクレイジーを得意の不可思議な力でどうすることも出来ずにただ恨めしそうに見上げて。
「当たり前だろ」
クレイジーは答える。
「"この世界"に害を及ぼすイレギュラーな存在は例外なく存在も概念も細部に至るまで全て抹消する──何処のどんな世界であれ至って共通の、神様としての責務を熟したまでだよ」
猫っ毛の少年は声を震わせながら。
「神……様ァ?、……」
血反吐を吐いて嘆く。
「化け物のくせに……ッ!」
それが──最期の言葉だった。
「せっかく助けてやったんだからさ」
血溜まりが広がる。
「手を叩いて喜ぶくらいしなよ」
赤く赤く。地面に染み込む。……
「だったら──その目で見るのをやめろ」
暗く黒く闇のように濁りきった隻眼は。
赤とも青とも区別が付かない。
「怖いの?」
クレイジーが糸を切らした人形のように首を傾けるとスピカは小さく舌を打った。正直な話よくもまあこの状態の彼らといつもと変わらぬ調子で会話が出来るものだなと感心した──そんな無鉄砲な彼だからこそふたりも気に入って敢えて側に置いているんだろうけど。ルーティは密かに息を呑んだ。
「……ところで」
クレイジーは改めて視線を遣る。
「それ。どうしたの?」