キーメクスの審判
この、声は──
「隊長っ」
虚空が罅割れて欠片が零れ落ちる。
「全員、動くな」
ロックマンは冷静に返した。否──冷静なようで歪な空気というものを感じ取っているのだろうその頬には静かに冷や汗が流れ落ちて。
「よく言うぜ」
スピカは眉を寄せる。
「仕事なんて最もらしいこと言っておいて」
睨み付けながら。
「結局は"囮"じゃねえか」
笑い声は高らかに。
「ご名答」
まるで内側から硝子を打ち破られたかのように正体の知れない透明な破片を零しながら。青い空には到底似つかわしくないどす黒く淀んだ空間が不自然にぽつりと──その奥からやがて二つの影が近付いてくれば次第に声がはっきりと。
「ほんっと苦労するよ」
鏡に映したような。
「その程度のことしか出来ないような」
黒衣に身を包んだ双生児。
「出来の悪い部下を持つとさ」
マスターハンドとクレイジーハンド──!
「あれ」
薄赤の髪を揺らして見下す。
「そいつ死んだの?」
視線を落とす先にはダークフォックスの姿。
「まぁいいや」
長く興味を引かずに目を逸らして。
「ひ」
視線が合わされば先程までとは打って変わって猫っ毛の少年は情けない声を上げた。
「な、なんだよ……テメェら、っ」
見えない一閃が今度斬って落としたのは。
少年の体を支えていた──
「あああああぁあああッ!」
最初は両腕。次は両脚。身振り手振りすらなく容赦なく視界に捉えたというだけで。これが神の力で私利私欲の為に振るう悪の所業だというのなら正義の意志を持って立ち向かうべきなのだろうが──今回ばかりは状況が違う。
「……、うるさ」
余所者基外野の介入を慈悲でも通すつもりなどないのであろう目の色。暗く沈んだ闇の色。
……あれが。
この世界の主たる創造と破壊の双神──
「きゃ……!」
一方その頃上空に滞在していた少年少女も一時は逃亡を図ろうとしたようだったがそれを易々と許されるはずもなかった。何か行動を起こすよりも早く半透明の水色のキューブの中にまとめて閉じ込められ二人は驚愕して手を付く。
「な、なんなのよ……!」
「どうして攻撃や魔法が通るんだ……!」
その言い分から恐らく彼らには何をしようにも何らかの不可思議な力が働いてどんな術であれ通らない仕組みとなっていたのだろう。
「説明するのも憚られるな」
その前に空間転移したマスターは目を細める。
「邪魔な口は閉じてしまおうか」
そうして翳した右手をくっと軽く握るとおかっぱの少年の隣で少女が大きく目を開いて天を仰いだ。口をはくはくと動かしながら自身の喉を弱々しく掻き毟る様は推測するまでもない──少年は焦りを滲ませながら両腕両脚を失って地面の上に転がり声が枯れるほどに未だ悲痛な叫び声を上げ続ける猫っ毛の少年を見下した後で少女を振り返り、そして最後に正面のマスターを見た。
「あ、あなた達は、いったい」
目を凝らせど浮かび上がるデータには謎のノイズが重ねられて正確に窺えない。
「も……元の世界に帰ります、から」
交渉の余地もない。
「おや」
マスターは口元に笑みを浮かべる。
「それは願ったり叶ったりだが……お前たちは親愛なる御両親に後片付けも教わらなかったかな」
おかっぱの少年は困惑した。関わった全てを元あった状態に戻せという言い分だったにしても具体的な例を挙げてもらえないのでは事細かに覚えているはずもないのでどうしようもない──少年は懇願するように壁に張り付く。
「じ……時間を貰えるなら、何とかします!」
終始見つめるその目は笑っていない。
「だから──!」
浮かび上がったデータに重ねられたノイズが。
ほんの一瞬だけ途切れる。
「え」
少年は目を開いた。
「……に」