キーメクスの審判
障害。異常。不調。欠陥。
創造する上であってはならないもの。
破壊の対象となり得るもの。……
「なによ、それ」
ルフレの口から言葉が零れ落ちる。
「バグなら仕方なかったの?」
彼女が腕に抱くその人は延々と血溜まりを生み出すだけで一向に動かない。
「設定に忠実じゃないというだけで」
声も。温もりも。
「人と同じように振る舞ったというだけで」
冷たく遠ざかっていく。
「それだけの理由でッ!」
ルフレはダークフォックスの体をそっと地面の上に寝かせた後で目の色を変えて勢いよく立ち上がると同時に足下に赤色の魔法陣を展開──召喚した魔導書を片手に無詠唱で手を翳し、焔を解き放った。彼女を留めるべく呼ぶ声は呆気なく掻き消されて燃え盛る焔は少年少女ら目掛け勢いよく突撃する。
「……ルフレ! 落ち着くんだ!」
駆け付けたマークが肩を掴んで訴えかける。
「納得できないわよ!」
ルフレは今にも泣き崩れそうだった。
「"仕方ない"で済まされるようなことなの?」
色濃く真新しく覚えているのに。
「納得して受け入れるのが正解なの?」
この胸は締め付けられるのに。
「そんなのって」
軸から外れたというだけで。
「あんまりじゃない……っ」
マークはしゃくり上げて涙に濡れるルフレを周囲から隠すように力強く抱き締めた。その一方で放たれた焔は案の定不可視の壁に阻まれたようで、暫くの間黒煙こそ立ち込めていたが徐々に晴れると無傷の少年少女らが姿を現して。
「ルフレ……」
彼女にとっての拠り所だった。
気付いていた。
「うぅ……っうあああ……っ」
それなのに。
僕は。
「あのさぁ」
不意にそんな声がすぐ側から聞こえてマークもルフレも弾かれたように振り返った。粗方想像はしていたが空間転移も使いこなせるのであろうそこにいたのはあの猫っ毛の少年である。
「そっちの奴はたまたま巻き込まれたってだけ」
少年は双方の反応など構わずに。
「本当に殺ろうとしてたのは」
告げる。
「あんたなんだよ」
え?
「……わ、たし……?」
目と目が合ったルフレは愕然とした。
「あんたのデータだってノイズが掛かってる」
少年は続ける。
「そこの奴に特別な感情を抱いてただろ」
心臓が跳ね上がる。
「今まで頑なだった正義の意志に逆らって」
違う。
「設定を覆した」
違わない。
「"バグ"なんだよ」
違、……
「……君たちが」
マークは言葉を失ったルフレを庇うようにして少年との間に立ちはだかりながら。
「そうまでして踏み込むメリットは何だい?」
睨みを利かせる。
「見たところ君たちは本来この世界とは関わりのないイレギュラーな存在に見える。全く別の世界から来た侵略者かと思えばこの世界の悪性を取り除いたり正す為に力を使っていたりまるで行動原理が読めない。……いや」
マークは小さく首を横に振った後で。
「仮説を立てるとするなら」
眉を寄せながら。
「……神にでも成るつもりかい」