キーメクスの審判
ルーティは唖然としていた。
確かに──彼らの言う通り一連の事件の中で大きな怪我を負ったり果ては命まで奪われたような被害者はいないのだろう。何処からともなく現れた彼らはその不可思議な力でこの世界における劣悪な環境を平等に正そうと力を振るった──そういう意味だけでなら単純に良心で働きかけている。……でも。
「リム達は……それでも、戦っていたんだ」
ルーティは緩く拳を握りながら。
「どんなに辛い運命でも他人には虐げられるような力でも。何度だって戦って、乗り越えてきたんだ。ただの親切でも、哀れみでも──」
顔を顰めて見上げる。
「簡単に取り上げていいものじゃないッ!」
一帯が緊張から生じた静寂に満たされる中ウルフはルーティの横に並ぶと銃を構えた。
「降りてこい。クソガキども」
そんなウルフの横でルーティは胸に手を置きながら昂った感情を抑えるべくゆっくり呼吸を繰り返した後で改めて少年少女らを見上げる。
「借りを返してやるよ」
そうして随所から武器を構える音や地面を踏み込む音がするのに対する少年少女らは拍子抜けするくらい無防備で。真っ先に痺れを切らせたリドリーは舌打ちと同時に背中に蝙蝠の様な翼を広げながら飛び出し、勢いのままに地面を蹴り出すと一気に飛翔。鋭利な爪の先端を光らせて殺意を宿しながら、容赦なく間合いを詰めていく。
後に続こうとしたルーティだったがロックマンが腕を差し出して遮り、止めた。意図を掴めずルーティは困惑の表情を浮かべて振り返ったが彼の真剣な面持ちを目に反射的に口を結ぶ。
「──ッ!」
この時のロックマンの行動はまさしく賢明な判断だったと言えよう──相手は子どもであるというのに容赦なくリドリーが大きく振りかぶった腕を下ろして斬撃をお見舞いしようとしたが刹那。目には見えない不可視の壁がそれをいとも容易く阻んで目前にまで迫った少年少女らを守ったのだ。
「"ROCK"」
少女が静かに手を差し向けて呟くとリドリーの体は次の瞬間不可思議な力によって硬直した。続けざま他二人と比べると幾分か口調の荒い猫っ毛の少年が浮遊しながらリドリーに接近したかと思えば目と鼻の先まで顔を近付けて。
「……!」
シュルクは
「まずいっ……リドリー!」
逸早く危機を察知したミェンミェンが咄嗟に腕を伸ばしたがおかっぱの少年が視界に捉えただけで彼女の動きがぴたりと止まった。続けざまシモンとリヒターが鎖を放つも容易く弾かれてしまい、万事休すかと思いきや間一髪ジョーカーの放ったワイヤーがリドリーの尻尾を捕らえて引き摺り落とす。
「ぁがッ!」
「暴力を振るおうとしたのはそっちじゃない」
少女は不貞腐れる。
「っ……クソ餓鬼どもが……!」
リドリーは上体を起こしながら睨み付ける。
「何仕出かすつもりでいやがった……!」
「少なくとも無事では済まされなかったよ」
答えるシュルクの横に進み出たマークは後方のルフレを尻目に捉えた。妹が懸命に呼び掛けながら繰り返し揺するダークフォックスに攻撃を見舞ったのは間違いなくあの中で最も強大な力を秘めているであろうあのボブスタイルの少年だろう──殺めるという行為を良しとしない態度から察するに慎重に話を進めていけばひょっとしたら戦う必要はないのかもしれない。だとしても、……疑問が残る。
「君たちが手を下す基準は何だい?」
マークがそれを聞くと少年少女らはまたも顔を見合わせた。少女が肩を竦めて息を吐けば猫っ毛の少年は気怠そうに頭の後ろを掻いて。おかっぱの少年はそんな二人を目に苦笑いを浮かべながら頬を人差し指で掻いた後で。
「……詳細的なデータが埋め込まれているということはこの世界にとって大事なキャラクターだと思ったんだ。そこに倒れている人には確かにデータこそ存在したけど──変なノイズが掛かっていて正常な状態には見えなかった」
彼らは繰り返し豪語した。
自分たちは対X部隊用に作られた人型兵器。
本物以上の偽物だ、と。
「元々我々も人語を理解して対話出来るように設計されていませんでしたからね」
ダークファルコは語る。
「作り直すのが面倒だという理由からほんの気まぐれに側に置いてもらえているってだけで壊れてしまえば上司おふたりにとってはさぞ都合が良いことでしょう。本物の人間さながらに変な情に惑わされていざという時に使い物にならないより物言わぬ人形の方がずっと使い勝手が良い」
スピカは睨む。
「……何が言いたい」
「人型兵器としての一線を超えている」
異様なまでの静けさの中に。
「あれは兵器でもなければ人でもない」
水を打つように。
「──"バグ"ですよ」