キーメクスの審判
遠く。食堂の扉の閉まる音がして。
「あれー来てたんだ」
ちょうどすれ違ったのであろうカービィの声。
「ダークシャドウの奴らもだけどあいつらほんっとアポ取らないよなー」
「似たもの同士というやつだね」
稽古を終えた剣士組が入ってきたのだろう。
「よぉーっす」
片手を挙げながらルーティに話しかけたロイは早い段階で異変に気付く。
「? 何かあったのか?」
「な、なんでも──」
「なんでもないわけないだろ」
眉を寄せながら口を挟んだのはネロである。
「そーだよ少年っ!」
当然のことではあるが食堂にはルーティやピチカ、ピーチの他にも人が居たのだ。一切口を挟まずに最初から最後まで大人しく動向を見守ってくれたのは有り難かったがルーティも何を思ったのやらこの件に関して口を噤もうとするものだから口を挟まずにいられるはずもなく。
「あんなの脅しもドーゼンじゃないかぁっ!」
「ろ、ローナ……」
同じテーブルを囲んだ席に座っていたレッドはどうどうと両手を挙げながら彼女を宥める。
「何があったんだ」
「詳しく説明してください」
口々に言うアイクとリンクにルーティは静かに膝の上で拳を握る。
「……実は」
時計の針の音が鳴り響く。
「なんだそりゃ」
ロイは呆れたように息を吐いた。
「んなのいつも通り無視すりゃいーじゃん」
ルーティは気まずそうに視線を落とす。
「それは、……そうなんだけど……」
──体力を温存しておきたくてね。
──対極の立場であるからには正しい距離感であるべきだろう。
──君も戦士ならある程度考える能力を養った方がいい。……
「引っ掛かりますね」
割れた硝子の鋭利な尖端のように刺さる言葉の羅列に自然と表情も暗くなってしまう。小さく溜め息をついたその時、リンクが腕を組みながら言うとルーティはハッと顔を上げて振り返った。
「近頃フォーエス部隊は新規の依頼を受けず活動を自粛している傾向にある……」
そこまで言ったところでリンクは一度口を結び推測の粗を思い直すように首を横に振る。
「いや。……例えるならまるで、もっと別の目的の為に水面下で動いているような──」
「別にどーでもよくない?」
遮ったのはカービィだった。
「今まで通りハイハイって聞き流して自由にしてりゃいいだけの話じゃないのは分かってるよ。でもさぁ──それって本当に僕らが必死こいて頭働かせるようなこと?」
おいおい、とロイが声を漏らした。
「だって本当のことでしょ」
カービィは気怠そうに言葉を紡ぐのだ。
「特別仲良くするような義理なんか無いって」
どちらに対する意味だとしても。
それは紛れもない──正論そのものだった。
「僕ら自由にやるってのが売りなんだからさー」
「カービィお前人でなしだぞっ!」
「そうだぞ、ピチカの前で!」
ディディーとトゥーンが口々に抗議するもカービィは面倒臭そうに溜め息を吐いて知らぬ顔。
「アンタは何も見とらんの?」
ドンキーが訊くとリオンはふぅむ、と唸った。
「両者共に終始不審な心情の変化等は確認出来なかった。強いて言うなら何方も己の仕事を全うしようとしていたかのように視える──」
心や思考の変化に人一倍敏感である彼が言うのだから間違いないのだろう。ルーティは改めて膝の上で固く拳を握りながら目を瞑る。
……考えるんだ。
これまで言わなかったことを今になって言ったのは。消化しきれなかった依頼を此方に任せて活動を自粛しているのは。推測が正しいなら。
「あ、」
ピチカが不意に口を開いた。
「あのね」
落ち着かない様子で指を組みながら。
「に、にぃにも隊長さんもいつも通りだったの」
ルーティは怪訝そうに見る。
「……だから」
ピチカは不安げに表情を曇らせながら。
「よくないことが起こるのはこれからなんじゃないかな、って──」