キーメクスの審判
二人の前にやってきたのは──マークだった。
「……ルフレ」
二度とそんな風に名前を呼んでもらえないことだろうとばかり思っていた。それほどまでに先程の戦いの中での彼の発言はこの状況を予測に置いていない覚悟を秘めたもので──ルフレは今すぐにだって飛び出して抱き締めたい衝動に駆られていた。けれど尚、躊躇いというものが生じる。
勝手な都合や解釈で。
兄さんの妹で居てもいいの?……
「よ。お義兄さん」
そんな時。
空気に水を差したのは。
「そんな風に呼ばれる筋合いはないよ」
マークはそれまで憂いを含んでいた目の色を鋭く変えると投げ付けられたボールをバットやラケットで弾くが如く即座に言葉を返した。
「遅かれ早かれ呼ばれることになんのに?」
「む。僕はそう簡単に大事な妹を」
その瞬間。
胸の内側で溢れるものがあった。
「……あ」
しまった、とばかりに口を結ぶマーク。そんな兄を目にルフレはどうにもたまらなくなってくすくすと肩を震わせながら笑い出してしまう。
「……なんスか?」
「いや、……ぅ……うぅん」
「私だってそう簡単に誰かさんのものになるつもりなんてないわよ」
ルフレが口を挟むとマークは目を丸くした。
「当然でしょう? 私まだ、兄さんと離れるなんて考えられないもの」
そこまで言ったところで遠慮がちに。
「なんて。……だめ?」
妹や弟という生き物は。
「……いいよ」
いつだって狡くて。愛おしくて。
「何処から何処まで読んでいたんだい?」
「それは──」
「るぅちゃん。こういうのは嘘でも"最初から最後まで"つって株を上げておくもんっスよ」
「それを言ったら意味がないでしょ」
「じゃ、今のは聞かなかったことにしておくよ」
「もう! 変な駆け引きしないで!」
和気藹々と。正義も悪も関係なく朗らかに和やかに笑い合うこの光景こそ戦いに明け暮れる日々の中で求めてきた答えなのではないだろうか──そうして一頻り笑った後でマークが差し出した手を取ってルフレは立ち上がった。そうしてもう一度小さく笑みを交わし合った後でマークはその手を今度はダークフォックスに差し向ける。
余計な詮索も言葉の掛け合いもいらない。
纏う空気や浮かべた表情が全てを物語っている。
ダークフォックスは何処となく照れ臭そうに小さく笑った後で手を伸ばした。その手が、指先が触れる直前になってマークが背を向けた先──空の彼方に歪みを見つけて何かを察する。
声もなかった。
立ち上がったダークフォックスはあれだけ強く言われていたにも関わらずルフレとマークの体を力強く突き放して。静かに目を開くだけの二人に対し、今度もやはりへらっと笑うだけで──全てが不思議とスローモーションに映り込む中で次の瞬間。
「え」
一閃が容赦なく胸を貫く。
赤が噴き出す。舞う。
「……だ」
地面に倒れ込む音が無情にも響き渡る。
「ダークフォックス!」