キーメクスの審判
水を打ったような静寂が訪れた。
筋が通っているのだとしても激戦の後である。簡単に警戒を解く訳にはいかない──けれどこの瞬間フォーエス部隊の面々はとある一人に対して指示を仰ぐかのように息を殺して注目していた。部隊を率いる隊長たるその少年は形容し難い空気に堪え兼ねて小さく息を吐き出す。
「……それで。我々にどうしろと?」
「僕たちが戦うべきなのは別の相手だよ」
ロックマンは首を横に振る。
「君の言いたいことは分かっているさ。だがこれは我が儘ではない。仕事なんだよ」
「僕だって贔屓で庇ってるつもりはないよ」
負けじとルーティは言葉を返す。
「素性も知らない蛮族だったとしても?」
「それは──!」
ロックマンは目を細めた。
「俺たちはマスターとクレイジーに命令されて例の事件の調査をしていた」
溜め息を吐いた後で口を開いたのは。
「無論、今回の事件の犯人を取っ捕まえるためだ。ま……誰かさんのお陰で進捗も何もねぇけどな」
「怪しい動きをしているからだろう」
「こっちだって仕事なんだよ」
相変わらず刺々しい言葉のやり取りが続いているが心なしか先程よりも少しだけ空気が和らいでいるような気がする──そう感じ取ったのはどうやらルーティだけではなかったらしく、随所で構えを緩める際に生じた僅かな金属音や小さく息を吐き出す音が聞こえても尚争いが再開されることはなかった。
そんな時、ふと目が合ったのはマークだった。すぐに目を逸らされたのでルーティは小首を傾げたが何気なく後ろを振り返れば彼の視線の先に自分がたまたま重なってしまっていただけなのだと気付く。
「いっ!」
不意打ちで横から頬を抓られたダークフォックスはそんな声を上げた。
「なにす──」
かと思えば肩に体重が伸し掛かる。
「……馬鹿」
ルフレはか細い声で。
「無茶、しすぎよ……」
彼にしてみれば、幽世の地下監獄に囚われたままの方が安全だったはずに違いないのに。
陽の光に体を焼かれながら。何度も飛び出して私のことを庇って。普通の人間とは訳の違う体の作りをしているのだと言ったところで至る所に刻まれた傷が何よりもの証拠で。痛く苦しい思いをしたことに違いはありはしないのに──
「るぅちゃんの考えてた通りになったっスねぇ」
ダークフォックスはへらっと笑う。
「これも"読み通り"ってヤツっスか?」
本当に。……この人は。
「スピカ」
どうやらもう完全に警戒は解かれたらしい。歩み寄ってきたスピカに気付いたルーティは目を丸くしながら耳打ちする。
「どういう関係なの?」
「知らねーよ」
スピカは呆れたように返した。
「おや。見たままでは?」
いつの間に。
「恋は盲目と言いますし」
「だからって敵に情報を売るのは──」
「それが想い人なら共有したいものでしょう?」
にこやかに説明するダークファルコにダークウルフは半分ほども理解していないようで眉を寄せながら唸った。そういうものなの? とばかりにルーティが視線を注げば対するスピカは肩を竦めて。と──横切る影に二人は同時に振り返った。
「!」
差す影に。ダークフォックスの横に座り込んでいたルフレはびくりとして顔を上げる。
「……兄さん……」