キーメクスの審判
空気が。……震えている。
草地を踏む音に振り返ったが直後ルフレの目と鼻の先に容赦なく突き付けられたのは紛れもない銃口だった。息を呑む彼女を静かに睨み付ける狼はそのすぐ後ろに見える主人の指示なしに勝手で制裁を下すことはないのだろう。
「まったく」
ダークフォックスの側に屈んで膝に腕を掛けながら覗き込んだのはダークファルコだった。
「命拾いしましたね」
「っへへ……よく言われるわぁ」
「何も面白くありませんよ。ルイージ」
へいへい、と気怠そうに返しながら次に現れたのはダークルイージである。傍らのダークマリオから救急箱を受け取って屈み込む彼は恐らく応急処置をするつもりなのだろう。これから何をしたところで手遅れにしか見えなかったが繰り返して言及しているように彼らは人間ではないのだ。ああ見えてギリギリ踏み堪えていたでもなく余裕だったのか──兎角ルフレは安堵して密かに小さく息を吐き出す。
「あででっ、あでっ!」
「動くんじゃねーよ死に損ない」
「……リーダー」
先程から視線を逸らさずルフレの動きを制しているダークウルフが静かに口を開く。
「こいつ、どうします」
ルフレは思わず息を呑んで彼のすぐ後ろで冷たく見下すその人と視線を交えた。その人は終始無言で体の至る所に黒の閃光を迸らせては一触即発のオーラを纏っている──今ここで保身の為にあれやそれを語ろうとしたところで皆まで聞かず吹き飛ばされるのがオチだろう。
「決まってんだろ」
希望なんて抱くべきではない。
「あー」
……なのに。
「ちょっと待ってもらっていいっスか?」
注目が集まる。
「そいつのことなんスけど」
ダークフォックス──
「俺、そいつと手ぇ組んでたんスよね」
んなっ! と誰より驚愕した様子で声を上げたのはダークウルフだった。
「組んでた、って……てめえっ」
「俺は知っていましたよ」
「なぁっ!?」
「ルームメイトですからね」
「そこは"パートナー"じゃねぇの?」
「おや。俺でいいんですか?」
「よくないっスねぇー」
朗らかに和やかにやり取りしているようで腹の内を探り合っているのだ。実際ルフレもそれは感じ取っていたらしく終始スピカに睨みを利かされているというのもあって警戒を解けなかった。
「関係あるかよ」
「り……リーダーの言う通りだ!」
ダークウルフは構え直す。
「とにかく。マスター様とクレイジー様には正義部隊を罠に嵌めて一網打尽にする為にテメェが勝手で女を利用したってことで報告を──」
「えー? なんも嬉しくないんスけど。てぇか何がおかしいんスか?」
上体を起こしたダークフォックスはいつものように軽薄に笑ってみせながら。
「俺らが愛してやまないリーダーだって結局は人間じゃないっスか」
重く打ち付ける心臓の音が遠く。
「俺がるぅちゃんのことを想うのと」
目を細める。
「……何が違うんスか?」