キーメクスの審判



魔法陣の中で。地面から空に向かって巨大な紫色の光が勢いよく突き抜ける。それは雲を波紋のように押し除け天空をも貫いて──戦士らを灼いたのかと見紛う光の中から地面を這いずるようにして抜け出た影は尚も構えを解かずその光の柱を睨み続けるルフレの隣で盛り上がると纏っていた黒の粒子を弾けさせて実態を現す。

「ありがとう。ダークフォックス」

ルフレは視線を向けないまま言った。

「……よかったんスか?」

あの時、黒煙の中からサンダーソードを手に飛び出したのはルフレに化けたダークフォックスだったのだ。意見を違えど仲間は仲間、本気で太刀打ち出来ないだろうと読んで彼に時間稼ぎをしてもらっている間に、本人は黒煙の中で闇魔法の詠唱をし、発動したというわけである。

「殺したわけじゃないわ」

ルフレは静かに手を下ろして答える。

「三日三晩、深い眠りに落ちるというだけ」
「それ大丈夫なんスか?」
「貴方だって分かっているでしょう」


本当の敵は"まだ"ここには居ない。それでも此方の意見に耳を傾けず兄さん達が立ち塞がるというのなら──こうするしかなかった。


「優しいんスねぇ」

ダークフォックスはからかうように言ったが直後に繰り返し酷く咳き込んだ。ルフレは慌てて彼の身を案じる。……身勝手な作戦に彼の力を使わせてしまったことが悔やまれる。それでも今の攻撃であれば遠くからでもよく見えたはずだ。

「ごめんなさい」

曇る表情に反して空は憎く晴れ渡る。

でも。

「もう少しだから──」
「ルフレっ!」


次の瞬間だった。


「え」

ルフレを力一杯突き飛ばしたかと思えばダークフォックスは肩と胸部含む数箇所を弾によって撃ち抜かれていた。赤を散らしながら彼がスローモーションで倒れかかる中で天空まで昇っていた光が失せて、その全貌が明らかとなる。

そこには狙杖を構えたブラピと両脇それぞれに光線銃を構えたシラヌイとモウカの姿があって。先程より険しい顔付きで立つフォーエス部隊の面々は誰一人として夢の世界になど誘われていない。一体何故なのか──その答えは先程の紫色の魔法陣の代わりに彼らの足下に大きく浮かび上がっている白い魔法陣が分かりやすく物語っていた。

「闇には光を」

杖を持ったパルテナが語る。

「……常識ですよ?」


読まれていた──!


「っ!」

各々が構える音にルフレは咄嗟に倒れたダークフォックスの前に立ち塞がり両腕を大きく広げた。直後容赦なく銃声が響き渡ったかと思うと、結んだ髪の束を掠めて──はらりと落ちる。

「ルフレ」
「嫌」
「退きなさい」
「絶対に嫌ッ!」

頑として譲らない姿勢をとり続けるルフレにロックマンは小さく息を吐くと傍らのマークを見た。

「……構わないな?」

マークは小さく頷く。

「兄さん……!」
「僕に妹は居ないよ」

冷たく。

「これまでも。……これからも」
 
 
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