キーメクスの審判
その後は他愛もない話に花を咲かせた。
これの何処が人に聞かせたくない内容なのだろう、と思いながら。……
「さて」
ロックマンは話に一区切りついたタイミングで袖を捲って腕時計に目を遣る。
「そろそろお暇させていただこう」
「今日は大乱闘しないの?」
「それもいいが体力を温存しておきたくてね」
余程仕事が立て込んでいるんだな。
「……ルーティ」
するとロックマンはまたもやおもむろにテーブルの上に両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持っていくお馴染みのポーズを取りながら。
「最後にもうひとつ頼まれてくれるかい?」
ルーティがきょとんとして首を傾げるとロックマンは肩を竦めて人当たりの良い笑みを返した。そんな仕草をするものだから大したことはないのだろうと踏んでいたのだ。
本当に。
……次の瞬間までは。
「偽物集団ダークシャドウ。並びに亜空軍」
その名前が挙がった時には遅く。
「彼等と」
残酷に言葉は紡がれる。
「縁を切ってもらえないだろうか」
……え?
「難しい話はしていない」
まるで時間が止まったかのような。
そんな感覚に苛まれながら。
「正義と悪。対極の立場であるからには正しい距離感であるべきだろう」
それでも、尚。
さながら追い討ちかのように。
「可笑しな話をしているように聞こえるかい?」
ロックマンは薄笑みを浮かべていた。
「世間体の話は持ち出したくないが君たちの関係性は正直言って危うい。上層部に知れてから正そうとするのでは余りにも遅すぎる」
言葉が喉につっかえて上手く出てこない。
「君と彼が幼い日々を共に過ごした家族のような間柄というのは心得ているよ」
口の中が乾いている。
「何より管理下のご子息でもある」
頭が回らない。
「……君も戦士ならある程度考える能力を養った方がいい」
無意識に落としていた視線を。
そろそろと持ち上げて瞳を震わせる。
「怖がらせてしまったね」
ロックマンは"いつものように"笑った。
「すぐにでもそうしろとまでは言わないよ。そこの彼女とあれは実の兄妹だろう?」
ルーティは同じように言葉を失って固まったままでいるピチカをはっと振り返る。
「隊長」
水を打つように呼びかけたのはルフレだった。
「分かってるよ」
ロックマンは立ち上がる。
「今度こそお暇させていただくとしよう」
どうしてこうも肝心な時に限って自分ときたら何も言葉が出てこないのだろう。
「いい答えを期待しているよ」
顔が見れない。
「それでは」