キーメクスの審判
黒煙は長く視界を阻むこともなく偶然か必然か一陣の風によって弾くようにして払われた。その先で厚手のローブの裾をはためかせて白銀の髪を風に掻き上げられる少年が一人。風が静まり、おもむろに睫毛の下から覗かせた煎茶色の瞳は紛うことなき瓜二つ。ダークフォックスが息を呑む側でルフレは答え合わせかのようにぽつりと小さく呟いた。
「兄さん……」
瓜二つの双子の兄妹。
一緒だった。何をするのも何処に行くのも。
鏡合わせのように。
違いなんて些細なもので。
「……ルフレ」
彼の後ろにはロックマン含む他のフォーエス部隊の隊員もいた。凡そ仲間に向けるべきではない負の感情がそれぞれの目に宿っている。それでも手を下さないのは、恐らくこれが最後のチャンスといった意味合いなのだろう──マークは広げていた魔導書を閉じて構えを解くと重く口を開いた。
「こんな形で会いたくなかったよ」
「追いかけてきたのはそっちでしょう?」
マークが口を閉ざせばルフレは伏し目がちに。
「……嘘よ」
元の憂いを帯びた表情で。
「分かってた。兄さんなら追ってくるって」
「……だからここに来た?」
「兄さんだって分かっていたはずでしょう」
マークはまたも口を閉ざしてしまう。
「……それが"答え"なのね」
相容れないというのなら。
「ルフレ……」
悲しげに繰り返す兄を見据えながら魔導書を消失させた後で手のひらを上に向けて翳し、浮かび上がった金色の魔法陣から雷を象ったかのような剣を召喚してグリップを握り構える。
「るぅちゃん」
「下がって」
空いた手を伸ばしてダークフォックスを自身の背後に押し遣りながら、
「大丈夫だから」
ダークフォックスはそれでも前に出ようとしたがまるで阻むように陽の光がより一層強く差し込むと眉を寄せて眩んだ。そんな彼をルフレは横目に捉えた後で改めて雷の剣──基サンダーソードを構える。
「兄さん」
その剣身に金色の閃光を走らせながら。
「……嬉しかったわ。私たちの関係を知っても尚私だけは守ろうとしてくれて」
マークは黙っている。
「今もその答えは変わってない?」
その問い掛けに。
「……そうだね」
諦めたかのように口を開く。
「僕が守ってあげられるのは君だけだよ」
そう、とルフレは呟いて。
「だったら私は」
サンダーソードを振るえば閃光が弾ける。
「絶対に帰らないッ!」