キーメクスの審判
短い針も長い針も午の刻を差す頃。
──ハイラル平原。
「ダークフォックス!」
人目を気にしながら茂みを抜けようとしたが直後視界の端で影が大きく揺らぐのを捉えて咄嗟に振り返り支えたのはルフレである。支えられたその本人は直射日光を少しでも避けるべく彼女から借りたフード付きのローブを頭から被っていたがそれでもこの青い空に白い雲が映える憎たらしいまでの快晴の中を歩くのは限界があるようで。軽薄に笑って片手を挙げて応える彼にルフレは顔を顰める。
「んな顔しないでよ。るぅちゃ──」
ダークフォックスは頭を垂れて咳き込む。
「っは……事件の犯人は、……この平原のどっかで絶対に姿を現すってんでしょ……?」
「いいから! 喋らないで!」
必死に身を案じるルフレにダークフォックスは頭を抱えながら力なく笑ってみせる。
「はは、……ごめ……」
想像していた以上だ──いつもの威勢なんてまるで見る影もない。ダークシャドウはその体の作りが極めて特殊で長く日光に晒されると体内の影虫が死滅してしまい彼らを形成するガワが保てなくなるものだとはそれとなく聞いていたのだけれど……
「……ダーク……」
天空の都市からここまで来るのはそう簡単ではない道のりだった。どうやってあれほどの高さからこの地上界まで降りてきたのかと聞かれれば圧倒的に彼の功績が大きい──けれどそれだけにダークシャドウの力を大きく使わせることになってしまい結果として代償に彼を苦しめる形となってしまった。夜が明ける前にここまで移動出来たのは有り難いが彼が力尽きてしまうのだけは考えたくもない。
「……大丈夫」
ぽつりと。
「もうすぐ来てくれる」
そう話す彼女の目は憂いを帯びていて。
「ほら」
次の瞬間。
「っ!」
驚くダークフォックスに反してルフレは何故か冷静だった。死角から放たれた炎の柱がさながら別の生き物かのように尾を引いて畝りながら襲いかかるのをルフレは振り向きざまに魔導書を取り出して広げながら詠唱もなく。足下に赤の魔法陣を浮かび上がらせれば片方の手を突き出して全く同じ焔を放ち、攻撃を阻む。冷静に対処した甲斐あってか半分以上押し返したところで案の定爆発を引き起こし、黒煙に巻かれてダークフォックスが咽せる横でルフレは憂いを帯びた表情を浮かべながら呟くのだ。
「……読み通り」