キーメクスの審判



……これは。

「嵌められたな」

退室して襖を閉めた後、フォックスはぽつり。

「う、うん」

何ともまあ商売の上手いことである。確かに連絡もせずに突然押し掛けたのはこちら側の責任ではあるが料金に関して触れなかったばかりに最後の最後にチラつかせて、その上貸しにするなんて──ユウがいる以上は切っても切れない縁だろうし上手くしてやられたというか。ふざけるなと宣う立場でもないしそうなってしまてばあちらはこの場で払えと言うだけなのだから詰みである。

「ったく」
「……あはは」

はてさて。移動する前に部屋の外で待っているはずのウルフにも声を掛けなくては──そう思ってルーティが辺りを見回すと、今いる場所から少し離れた場所に彼の後ろ姿を見つけて。

「あれっ」

きょとんと目を丸くした。てっきりいつものように場所を考えず一服しているものかと思いきや、誰かと話しているようなのである。ルーティは疑問符を浮かべながら他の二人と顔を見合わせる。

「あ」

近付いてみるとウルフが話していた様子のその相手には見覚えがあった。その相手も此方の存在に気付いたようで目を丸くして声を上げる。

「ど、どうも……」


藤色の髪も切れ長の目も。

彼らが親子であるという何よりもの証拠で。


「……話は聞かせていただきました」

その男性は深々と頭を下げる。

「わ、えっ」
「我々はこうすることしか敵いません。肝心な時に親として側に居てやることも出来ない……」
「そんな──」
「ユウは大丈夫です。必ず元に戻りますよ」

フォックスがルーティを遮り前に進み出て言うと男性はぱっと顔を上げた。今にも泣き出しそうとまでは言わないがその表情は悲哀に満ちていて──もう一度深く頭を下げて重く口を開く。

「……よろしくお願いします」


確信はなくとも。

今は信じて突き進む他ない。……


「フォックスとファルコは屋敷で待機している皆にこのことを知らせて」

玄関を過ぎた後でルーティは口を開いた。

「僕とウルフは先に向かう」
「分かった。気を付けてくれ」

闘志を胸に力強く頷く。

「……うん!」
 
 
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