キーメクスの審判
薄い桃色のショートヘアにサイドには猫耳のような三角形のお団子。長い睫毛の下から覗く瞳は澄み渡った空の色で中華風の白い衣装を身に纏っている。──彼女の名前はシア。
ユウ・ブランの従兄妹にあたる人物で。
数ヶ月前ユウに対する強い恨みや妬みからルーティ含む複数名を洗脳という形で手中に収め復讐しようとした、その愛らしい見た目からは凡そ想像も付かない恐ろしい少女である。
「どうぞ。遠慮なさらずに」
長い袖を口元に運んで小さく笑いながら。用意された座布団に座るよう促されればルーティは目配せをした後でそれに応じる。
「うふふふ」
小さく笑う声は鈴を転がすよう。
「嬉しい。由緒ある防衛部隊の皆様が私に頼るべく自ら足を運んでくださるなんて」
ルーティは苦笑いを浮かべる。
「あ、はは……えっと、……なんで分かったの?」
前述の通り今日ここに来ることはこの家に関わる誰にも知らせていないはずなのだ。それだというのに彼女本人にこうして歓迎されるばかりでなく従者まであの対応では緊張の糸を張り巡らせた割には拍子抜けというもので。
「私の予測の力を頼りにここまで来られたはず」
シアは膝の上に重ねて手を置いて見据える。
「その証明としては充分で御座いましょう?」
全てを見透かされているようだ──
「未来予知を使えるんじゃねえのか?」
声を上げるところだった。
「ファルコっ」
フォックスが堪らず眉を寄せる。
「事前情報に誤りがあるようですが」
「ご、ごめんなさいっ──」
「冗談です」
肝が冷えるとは今この瞬間のことを指すのだろうとその身を持って味わった気がして。ルーティは引き攣った笑みを正せずに体を強張らせる。
「……ブランの力を頼って訪れた人の大多数が同じように肩を落とされます」
そうして話す彼女は何処か憂いを帯びていて。
「現在、ブランの血筋で未来予知が扱えるのはおにいさまただひとりだけ。そんなおにいさまは皆様もご存知の通り、防衛部隊の配属を望まれ常時家にはいらっしゃらない」
ルーティは膝の上で拳を握る。
「ブランにとって望ましくない環境下でありながら何故、その格式が維持されているのか」
空を映した天色の瞳は。
「お見せしましょう」
かつての執着を未だ忘れていない。
「ご用件を」