キーメクスの審判
森林都市メヌエル。
「……すげぇな」
その都心部から大きく離れた場所にひっそりと佇む和製家屋。ぽつりと呟いたファルコの意見には同意せざるを得ない……ルーティは緊張にごくりと息を呑み込んで前に進み出る。
「本当に」
「しっ」
尚も話しかけようとするファルコを留めたのはフォックスだった。此方はこうも言い知れぬ緊張感に揉まれて吐きそうなくらいなのに付き添いで来た内の一人であるウルフが呑気に欠伸を洩らすのが視界の端に映り込んでルーティは唇を尖らせる──はてさてだからといって腹を括らなければ不審者として通報され兼ねないとさながら強面の門番の如く構える木製の門に意を決して向き直れば。
手を掛けるより先に。
門が開いて。
「ぇ、あ」
思ってもみない展開だった。
「いらっしゃいませ」
出迎えた女性が柔らかく微笑む。
「あ……の」
「お話は伺っております」
そうして門が大きく開かれると、いつか見たように石畳の道の脇に左右均等に並んで和装に身を包んだ男性や女性が頭を下げた。
「どうぞ」
女性は手のひらで指し示しながら。
「お嬢様がお待ちです」
もちろん、自分はこの家を訪れるにあたって前以て連絡などしていない。これに関しては何か考えがあったわけではなく単純にそこまで頭が回らなかったといういわゆる間抜けである。
和室と庭の間に設けられた板張りの廊下を僅かに軋ませながらゆっくりと進む。小鳥の囀りや鹿威しの音に以前とは違う安らぎを感じながら歩いた先──目的の場所が近付いたのか先導していた女性は足早に進み出てとある襖の前に両膝を付き、中に居るであろう人物に声を掛ける。
「……お嬢様。連れてまいりました」
返事はひと呼吸置いて返ってくる。
「どうぞ」
柔らかで淑やかな少女の声。
「おはいりになって」
促すように女性が座礼をするのでルーティはほんの少し躊躇いながらも襖に手を掛けた。そうしてなるべく音を立てないようにそっと開いた先では思った通りの重厚感のある木の天井と広々とした畳敷きの和室が迎えて。漆塗りの座卓は敢えて部屋の脇に退けられており代わりに一人の少女が微笑みを湛えて座布団の上に座している。
「おひさしぶりです」
ルーティは未だに慣れないといった様子で口ごもりながら返した。
「お……お久しぶりです。……シア、さん……」