キーメクスの審判
すれ違う寸前。
ルフレは一瞬だけ視線を流した。
「ご、ごめんね! ロックマン」
食堂の扉が閉まったと同時にルーティが慌てふためきながら立ち上がろうとすればそのままでいいとでも言うように片手を軽く挙げて制しながら進み出たロックマンが向かいの席に座った。
「いや。此方こそ何も約束を取り付けずに訪問してしまって申し訳ない」
「う、ううん」
気にしてないよ、と心の奥底では思ってもいないようなことを苦笑気味に返しながらルーティも遅れてそろそろと椅子に座り直す。
「それで……どうしたの?」
ルーティが訊ねると食堂の入り口付近に居たパックマンは扉をそっと開いてその隙間から廊下を覗き見た後でロックマンと視線を交わした。どうやら余程聞かれたくない内容らしい。
「折り入って相談があるんだ」
言うや否やロックマンはテーブルの上に両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持っていくお馴染みのポーズを取りながら話を切り出す。
「最近、依頼の全てに手が回らなくてね」
珍しいな、と率直に思った。
「忙しいんだね」
司令塔の四階に拠点である寮のある彼らだ。離れに拠点を構えている自分たちと違って"近いから"という理由だけで気兼ねなく多くの依頼や任務が舞い込んでくるのだろう。
選別しても致し方ないレベルの多忙っぷりだろうに上手く振り分けて余さず熟しているのだと聞いた時は正気を疑ったものだ。今更手に負えなくなったのだと聞いたところでそりゃそうだ以上の感想が出てこない。寧ろよく持ち堪えたものである。
「お手を煩わせるようで申し訳ないが其方で幾つか請け負っては貰えないだろうか」
その言葉が聞きたかったと拍手を送りたい。
「もちろん」
ルーティが快く引き受けるとロックマンの視線を受けて進み出たマークとルフレがそれぞれ懐から紙を取り出した。正直な話もう少し厚みのある紙束をテーブルが揺れる勢いで置かれるものだと思っていただけに拍子抜けである。
「……えっと。これだけ?」
なんて訊ねるとロックマンは失笑した。
「今日この場所に足を運ぶのだって憚られたのに。意地の悪いことを言う」
来訪に気付いたピーチが紅茶を淹れたカップを置けば「ありがとうございます」と微笑。早速カップを手に取って一口頂きながら、
「全てまでは押し付けないさ」
「そんな、気を遣わなくてもいいのに──」
「君が仮に似た立場だとして管理不足で溜め込んだ仕事を涼しい顔で先人の方々に依頼出来るかい?」
うぐ、とルーティは言葉に詰まった。当前だが彼を相手に口論で勝てると思わない方が良さそうだ。
「……意地悪だよ」
「拍子抜けついでに断るかい?」
ぐぬぬ。
「……んもぅ」
ルーティが膨れっ面で言うとロックマンは遂に噴き出してしまった。
「失礼。でも助かるのは本当だよ」
ロックマンは笑顔で礼を述べる。
「ありがとう」