キーメクスの審判
暗く。冷たく。深い闇の中に。
悲鳴や喚き声が響き渡っては溶けていく。
レイアーゼ中央司令塔地下二階。
──幽世の地下監獄。
「……っぱし駄目か」
まさか、大人しく収容されているだけのはずもない──ミカゲ達の手によって慈悲もなく牢の中に放り込まれたダークフォックスは思いつく限りの手を尽くして脱出を試みたが、結果は彼自身が呟いた通りのものだった。影の力が使えれば容易いが残念ながらそれだけの体力が残されていない。厳密に言ってしまえばこれ以上使うのは、もう。
「!」
リーダー達が助けに来るのを待つか……と鉄格子に背中を預けながら座り込んだその時同じように収容されている人間たちがより一層騒ぎ立て始めた。何やら足音が近付いてくる。
「……いいご身分ね」
その相手は自身の牢の前で立ち止まった。
「ルフレ……」
頭をすっぽり隠すように被っていたフードをおもむろに取れば白銀の光沢の美しい髪が露となる。続けて彼女が牢を閉ざす南京錠に手を翳せば金色の光が灯り──程なくして開放。ダークフォックスは驚き呆気にとられながらも立ち上がる。
「やっとまともに呼んでくれたわね」
「いや、……ちょ……何してんの」
「さっさと行くわよ」
「いやいや」
碌に説明もしてくれないまま歩き出すルフレを追いかけて牢の中から飛び出したダークフォックスは、慌てて彼女の手首を捕まえる。
「何よ。出たかったんじゃないの」
「そうじゃなくて」
ダークフォックスは握り締めながら。
「……なんで泣いてんの」
今。まだ。
戻れるのだとしても。
「うるさいっ」
弾く勢いで振り払って振り返る。
「貴方がそういう風にさせたんじゃない……!」
これが罪でも間違いでも。
「ごめん」
次の瞬間。
ルフレはダークフォックスに引き寄せられるがまま彼の腕の中に居た。
「……デリカシーのないこと言った」
啜り泣く声に胸が軋む。
「変なの。俺、加虐性癖持ちでるぅちゃんが泣いたらてっきり興奮するもんだと思ってた。そうでなくても、もしそんな場面に出会したら思いっきりからかってやろうとか最低なこと考えてたのに」
苦しくて痛ましくて苦い。
「……泣かないでよ。るぅちゃん」
強く、強く。
訴えかけるように抱き締める。
「……俺が」
代わりになれなくても。
「俺がちゃんと、守るから──」