キーメクスの審判



レイアーゼ中央司令塔四階。フォーエス寮。

「はぁ……」

その内の一室の中で机と向き合って椅子に座り分厚い本と睨めっこしていたが、不意に糸が切れたように溜め息を吐き出して瞼を閉じたのはルフレだった。──連続怪奇事件に関連しそうな書物を資料室から借り出して片っ端から読み漁ってはみたもののなかなかにピンと来ない。

調べ方が悪いというよりはまるで遠ざけるべく暗示を掛けられているような──そんな気さえする。マスターハンドとクレイジーハンドが自分たちスマッシュブラザーズに今度の事件に関して関わらせないように感知できない方法で働きかけているのだとしたら有り得ないという話ではない。ルフレはそっと瞼を開いてぼうっと天井を仰ぐ。


ダークフォックス。

上手くやってるかしら。


「、!」

扉の開く音がして慌てて本を閉じた。調べ物に関して別段隠す必要ないのだろうが頭の中で考えていたことは正直読み取られたくない──故に行動として反映されてしまったのだろう。

「ただいま。ルフレ」

ノックもせずこの部屋に入ってこられるのは同室の兄だけ。

「おかえりなさい。兄さん」

柔らかく微笑んで扉を閉める彼にそこはかとない違和感というものを覚えた。何せこの世界に生まれ落ちてから現在に至るまでずっと共に過ごしてきた兄妹である──そうしてルフレが視線を外せずにいるとマークはベッドの縁に腰を下ろして言うのだ。

「ルフレ。こっちにおいで」


いつもの声で。

薄笑みを湛えながら。


「……どうしたのよ」

何でもない風を装いながら隣に腰を下ろすルフレだったが内心気が気でなかった。どれだけ自分が天才と謳われた軍師でも唯一兄だけは誤魔化せるような相手だと思っていない。

「ルフレ。……僕はね」

らしくもない前置きに心臓の音が加速する。

「どんな友好的な関係を構築したって、家族以上の存在はないんだってはっきり言える」
「……私もよ。兄さん」
「だからこそ一番大切だし大事にしたいと思う」

私も、……そう返そうとして。

ルフレは言葉を呑んで黙りこくってしまう。

「……ルフレ」
「違う……違うの。兄さん。……私も、そう思う。そう思うわ。……でも」


裏切りたくない──


「……うん」

一体いつから気付いていたのか──検討もつかないくらいに兄の演技は上手く出来ていたと思う。

同時にそうして泳がせるだけではどうにもならないくらい事態が大きく変化してしまったことも察せてしまう。これは兄なりの優しさで。


だからこそ、……苦かった。


「……ダークフォックスなら幽世の地下監獄に収監されたよ」

ルフレは弾かれたように振り返った。

「さっき、ロックマンの部屋に行った時にミカゲが報告していたんだ」

様子に気付いたマークは間を置かずに続ける。

「大丈夫だよ。僕は資料を提出する為に寄っただけだから話には参加していない」

それを聞いて安心するのと同時に確信まで得てしまった。ルフレは観念したようにがくりと頭を垂れて膝の上で拳を緩く握り締める。

「……いつから気付いていたの」
 
 
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