キーメクスの審判
ミカゲが手を引くと同時にダークフォックスは糸の切れた人形のようにがくんと頭を垂れた。どんな感情を抱いているのか知らないが近しいものを挙げるとすれば、失望か。リヒターは説明を求めてイレブンとミカゲを交互に見遣ったがそのどちらも視線を返さないのを見て溜め息──と。次の瞬間。
「!」
ダークフォックスは瞬時に全身を黒く染め上げたかと思うとまるで液体のようにどろりと溶けて崩れ落ちて消失。ほんの一瞬でも姿を眩まされたのでは油断が生まれるというもの──戸惑うリヒターの目前にダークフォックスは元の形を成しながら飛び込む形で現れた。一か八かの反撃に出たのだろう殺意を明確に纏いながら。
「がッ」
けれどそれは惜しくも敵わなかった。即座に背後に回り込んだミカゲが的確に手刀で首の後ろを叩いて落とせばその一瞬で意識を手放して鎮圧──地面に体を投げ打つようにして倒れる。
「わ、悪い」
ミカゲは小さく息を吐き出す。
「……どういう事で御座るか」
恐らくは自分に向けて言っているのだろうと察してイレブンは顔を向ける。
「分からない」
思ってもみない返答に内心驚いていれば。
「何か聞かれたら彼女の名前を出せ、と」
イレブンは淡々とした口調で。
「……マークが」
現状を揶揄うように。嘲笑うように。
冷たい風が吹き抜けていく。
「で。どうするんだよ」
リヒターが再度訊ねればミカゲは地面に倒れたまま動かないダークフォックスを見下す。
「この件について隊長に報告する」
「こいつは?」
──あの一瞬でも此奴の表情の変化に気を許すべきではなかった。獣の如く牙を剥き出しにして仲間に襲いかかろうとしていたあの顔に殺意と怒りが入り混じる。ミカゲはより一層冷たく──それこそ氷の如く見下げた視線で見据えながら言い放つ。
「"幽世の地下監獄"へ」