キーメクスの審判



第四正義部隊フォーエス部隊。決して弛まぬ正義への忠誠で跋扈する悪を容赦なく捩じ伏せるその秀でた功績からX部隊と同じかそれ以上の評価を受けているレイアーゼが誇る防衛部隊の一つである。

これでもまだ新人の枠を出ない結成したばかりの部隊なのだがその実力というのも誰か一人が突出しているというわけでもなく。指揮する隊長の指示と判断が留まることを知らず各隊員一人ずつの成長へと繋いでいるのだろう。


その隊長こそが。

ロックマンその人なのである。


「こ……んにち、は……」

事前に話さえ聞いていれば鉢合わせは免れたというのにこれで何度目だというのだろう。

「うん?」

フォーエス部隊とダークシャドウ。正義と悪。白と黒。決して混じり合わない水と油のような関係性で且つ対極の立ち位置である彼らは確かに大事件が起こったあの時一時休戦という形で手を取り合ったがそれはもう過去の話。

自分だって彼らが仲良く手指を絡めて繋ぎながら円を描くようにステップを踏むのは嫌でも想像が出来ないが──ひと度顔を合わせれば息をするように嫌味だの舌打ちだの。こないだなんかスピカの妙に的を射た発言に堪忍袋の尾が切れたロックマンの鶴の一声で大乱闘が始まったもんな。

あの日は本当に酷かった。主にリンクが。

「……ああ」

それまで笑顔で小首を傾げていたロックマンは瞼を開くと冷たく目を細めた。

「"また"君たちか」


始まった。


「まるで給水所かのように当たり前の顔をして立ち寄るじゃないか。懲りないな」
「懲りないのはそっちだろ。こっちは真面目にアポ取ってテメーらみたいな不愉快因子と顔突き合わせないように気ィ遣ってんだよ」
「本当に我々に気を遣ってくれているのなら是非にその足で署に出頭してほしいものだが」


ああ言えばこう言うの典型。

両者譲る筈も無し。


「てンめえ……」

静電気の弾ける音がする。

「人が下手に出てりゃ調子にッ」
「これまた言い得て妙だな」

ロックマンは小さく花で笑う。

「君が"人"であったことがあったか?」


ぶちん。


「てめえッ!」

今にも食ってかからんとするスピカをすかさず後ろから羽交い締めにしたのはダークフォックス。

「だっ、離せ!」
「まぁまぁ」

ロックマンはわざとらしく一息。

「君が単細胞で助かるよ。犯罪者を裁く側としても理由や動機は多いに越したことはない」
「隊長もその辺に」

ルフレが耳打ちをすれば。


互いにふんと鼻を鳴らして──終息。


「にぃにっ!」

一部始終を見守っていたピチカはダークフォックスの手荒に腕を振りほどいて腕を組みながらそっぽを向くスピカの正面に回り込んで訴えかける。

「仲良くしようよっ!」
「ピチカ、それは」

無理な話だとルーティが口を挟む間もなく。

「すみません。俺たちはこれで」

ダークウルフは申し訳なさそうに眉尻を下げながらピチカに対して断った後でスピカの肩に手を置くと「行きましょう」と囁いて。未だ不服そうなスピカの肩を押して半ば強制的に歩かせながら食堂の入り口に鎮座するロックマンの横を通り抜ける。

「それではまた」

すれ違いざまにダークファルコが言えばパックマンが「誰がッ」と眉を寄せ吐き捨てた。次いでダークフォックスはひらりと手を振りながら。

「じゃあねぇ」
 
 
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