キーメクスの審判
昼間、X部隊の奴らが討伐にあたっていた異常発生した魔物──ダークリンク達から話を聞いて、残骸を調べれば何か情報を得られるんじゃないかと見て日が落ちた頃合いを見計らって参じたが……まさか正義部隊の連中に嗅ぎ付けられていたなんて。
多勢に無勢とまでは言わないが……不意を突かれてしまった上に人質まで取られてしまった。
……くそ!
こんな最悪な日があるかよ……!
「ぁぐ……ッ!」
リヒターの鎖によって背中に回された両腕を縛り上げられた上で地面にうつ伏せで転がされているのはダークフォックスだった。加えてその傍らではソロが剣を首にあてがっているのだから、忠告の通り下手な動きを見せれば刎ねられた首が紙吹雪のように赤を散らしながら宙を舞うのは目に見えている──
「リーダー」
反撃といきたいところだが満月を背に古風な武具を手にして冷たく見据える忍の男が厄介でならない。タイプ相性で見れば此方が有利であるはずなのに素早い身のこなしに翻弄されている隙に仲間を人質に取られてこのザマだ。
「……何が目的だ」
ダークウルフが指示を促すように静かに小さく呼ぶのを疎ましく感じてしまいながらスピカが苛立ちを押し殺して訊ねてみれば。
「貴様等こそ何が目的だ」
忍の男が冷めた口調で質問を質問で返した。
「テメーらには関係ない。大人しくしてりゃ危害を加えるつもりなんざ無かったんだ」
「前言を撤回するなら受けて立とう」
「売り言葉に買い言葉では埒が明きませんよ」
ダークファルコは注意を促す。
「ウルフ」
そうしてスピカが察せない内に。
その一声でダークウルフはダークファルコの提案に応じることを決心した。
次の瞬間である。
「なっ」
ダークファルコが地面に向けて銃を発泡したのだ。銃弾が地面に到達するとそこを起点に波紋が二度三度と広がりじわりと漆黒の影が塗り広げられて底の見えない穴となる。となれば当然足場を失ったスピカ含む三人は落下するわけで──事態に気付いて踏み出したフォーエス部隊の面々に阻止されることを見越して、ダークウルフは迷わず自身の手首に牙を立てて噛み付き皮膚を破る。
刹那──開いた傷口から黒い煙が漏れ出したかと思うと一気に噴出、辺り一面を覆い隠して。暗闇と見紛う視界の中忍の男基ミカゲが双眸を海棠色に瞬かせて水苦無を投げ付けるも手応えは感じられず。遅れてソロが剣を大きく薙ぎ払い、魔法による突風を起こして煙を払うも跡形もなく姿は見当たらない。
「……逃げられたか」