キーメクスの審判
水を打ったような静寂が訪れた。
きっと皆、頭の中では様々な考察を巡らせているのだろう──そしてそれは自分だって同じ。
「ルーティ」
フォックスが反射的に呼び止めた。
「……僕、聞いてみるよ」
ドアノブに手を掛けて扉を開ける直前で足を止めたが振り返らずに。それだけ告げて飛び出していくルーティを今度こそ止められるはずもなく。フォックスは行き場を失った手を力なく下ろして頭の上の狐耳を悲しげに垂れる。
「この状況で電話になんか出ると思う?」
「どうでしょうね」
ローナとシフォンが口々に言った後で。
ネロは顔を顰めながら。
「……やらせとけ」
目には見えない言葉の刃が背中に突き刺さるかのような感覚を覚えた。誰も何も言っていないようで未だに彼らの肩を持とうとしている僕の行動はきっと不快に見て取れたことだろう。
それでも。僕は。
「っ……」
食堂から大きく離れて曲がり角。
端末を耳に押し付けながら応答を願う。
「早く……出てよ……!」
スピカ──!
宵闇に風が吹き抜ける。
暗雲が払われて月光が全貌を照らし出す。
「、くそ……っ!」
レイアーゼ都心部から数メートル離れた先。
鬱蒼とした森の近く。
「!」
ジャケットのポケットの中の端末の振動に気付いて影に隠れつつ着信先を確認すれば幼馴染みの名前があった。状況を説明してやりたいのは山々だがその時間すら惜しいと応答を諦めて無視を決め込む。
「悠長に構えていられるのも今の内だぜ?」
鎖の音に意識を引き戻されて睨み付ける。
「最も」
呻き声が聞こえれば眉を寄せて。
「妙な真似をすればコイツの命が危ねえけどな」