キーメクスの審判
この場に居合わせた者の何と運の悪い事だろう──きっとどんな食事も味が分からないどころか喉を通らないに違いない。ごめん、と口から零れ落ちたかのように小さく言って一歩二歩後退するトゥーンの元へ駆け付けたディディーが心配そうにしながらも上手い言葉が見つからずに何も言えないままで。
「これもダークシャドウの仕業かよ」
沈黙を破ったのはネロだった。
「敵のクセに仲良しヅラなんておかしいと思ってたんだ」
ルーティは言い知れない焦燥感を覚える。
「そ、そんな言い方ないだろ!」
咄嗟に反論したのはディディーだった。
「確かに、兄ちゃん達は今度の任務の途中でダークシャドウに出会してその後を追っていた……でも、それだけじゃん! 奇襲を受けたのは後ろから……肝心のダークシャドウは正面にっ」
「罠に嵌められたってだけなんじゃないの?」
ローナは頬杖を付きながら。
「不意打ちを狙って囮を使って後ろから。そんなの戦場じゃ常識でしょ」
「でもっ!」
「相手のチームのリーダーが好きな相手のお兄さんだからなんて理由にならないわよ」
追い討ちをかけるように、シフォン。
「……ダークシャドウを作り上げたのは誰なのか今一度考えてみることね」
言葉を失ったディディーは影を落として俯いた。
「いいって。そうやって無理に庇わなくても」
ぽつりと洩らしたのはトゥーンである。
「よかったじゃん」
吐き捨てるように投げ遣りに。
「……お前の兄ちゃんは何ともなくて」
えっ?
「せやなぁ」
ドンキーは否定しなかった。
「んだよその反応」
ネロはおもむろに立ち上がって──
「ふざけんなよ!」
胸ぐらに掴みかかる。
「テメーだろッ! ダークシャドウと結託して他の四人を嵌めやがったのは! じゃなきゃテメーだけ無事なんておかしいもんなぁ!?」
そうして拳を振りかぶるのだからざわついた。
「ちょっと、やめなさいよ!」
「落ち着けって!」
ピーチやロイが口々に間に割って入ってすかさずドンキーからネロを引き剥がす。ネロは羽交い締めにしてきたロイを強引に跳ね除けると獰猛な獣であるかのように唸りながら鋭く睨み付けて。
「好き勝手ゆうたらええ」
それだというのにドンキーは小さく笑って肩を軽く払い胸元を正して言葉を返す。
「あんたには分からんのやろな」
いや、違う。……これは。
「目ぇ覚めたら自分以外の仲間が取り返しのつかんようなことになっとる地獄みたいな光景なんか」
紛れもない。
自分の無力さを呪った──嘲笑だ。