キーメクスの審判
……こんな事になるなんて。
「原因は何だろうな」
気を紛らわす為なのか否かフォックスがそんなことをぼやいた。それでも結局「うん」と力なく小さく返すだけのルーティにそれ以上言葉が見つかるはずもなく先程までと同じ、鉛玉のように重い沈黙へと戻ってしまうわけなのだが。……
「──!」
金属類が床に叩きつけられたかのような甲高い音にルーティが肩を大きく跳ねて顔を上げれば食堂は目と鼻の先だった。これ以上何もあってほしくないと心の底から願ったところでそれが今更都合よく叶うはずもない。フォックスと顔を見合わせて頷きルーティは食堂へと駆け込む。
「い……っ……づ……」
事情は知らないが左手首を右手で強く握りながら強い痛みに堪え兼ねた様子で床に片膝を付くリンクの姿がそこにあった。「リンク!」と呼んで慌てて駆け寄ったルーティは傍らで膝を付いて案じていたが遅れて彼と向かい合う形で見つめる影の存在に気付いてそろそろと顔を上げる。
「……ドンキー」
その人は。
いつになく険しい顔付きで見つめていて。
「、違います」
何を聞くより先にリンクが答えた。
「彼には何もされていませんよ」
ふらつきながら立ち上がる。
「まったく。黙ってるなんて紛らわしい人ですね。説明してあげてください」
「せやかてこれでもう何度目やねん」
「"何度でも"です」
ドンキーは深い溜め息混じりに頭の後ろを乱雑に掻いた後で足下まで転がってきていた先程聞こえてきた音の正体を拾い上げた。ルーティは馴染みのある光沢を目にきょとんとして目を丸くする。
「それ……マスターソード……?」
ルーティの呟きに「せや」と答えてドンキーは拾い上げたそれを手に接近した。そうして目の前で差し出された持ち手を受け取るべくリンクはゆっくりと手を伸ばして触れようとするも指先が触れるか触れないかの距離に迫った瞬間目も眩むような青白い閃光が火花の弾けるような音を立てながら激しく飛び散って──ルーティは大きく目を見開く。
「ッ……ご覧の通りです」
リンクは反射的に引っ込めた手を摩りながら。
「マスターソードは……主人であるはずの自分を、何故か拒むようになった……」
え?
「他の剣は問題なく触れるんやけどコレだけは駄目や。まるで意思を持って拒否しとるかのようにああやって激しく抵抗しよる」
ドンキーはマスターソードを見つめながら。
「……こんなこと……あったか?」
「いいえ。心当たりすらありません」
リンクは手を軽く振るって自嘲気味に。
「……最も。これまでの怠慢に我慢ならなくなった神々によって勇者としての資格が剥奪されたというのなら話は別ですが──」
「何でそんなこと言うんだよ!」
遮るように声を上げたのはトゥーンである。先程まで離れた位置で見守っていた様子の彼は駆け寄ると服の裾を掴んで揺すりながら。
「そんなわけないじゃん! だって兄ちゃんはハイラルだけじゃない世界を救った勇者なんだぞ!」
……訴えかける。
「もう一回試そうよ! 次は──」
「少しは休ませてもらえますか」
トゥーンはハッとして服の裾から手を離す。
「痛いんですよ。……結構」