キーメクスの審判
全国各地で発生している連続怪奇事件──被害の報告こそまとまりが無いが幸いにも共通点ははっきりしている。その一つが必ず現場で目撃されるダークシャドウの存在だった。
亜空軍に所属している偽物集団ダークシャドウ──その見た目は髪や肌の色が影のように黒く双眸を紅蓮のように不気味に赤く染めている以外はあの特殊防衛部隊X部隊のメンバーと瓜二つ。強いて言うなら性格や口調も本物と比べると真逆に窺えるがここでは深く言及しない。
兎角。
これだけはハッキリと言える。
今度の事件には彼らダークシャドウ基亜空軍が深く関わっているのだ、と──
「関わってないものとも思ってなかったが」
難しい表情を浮かべたリュウは椅子の背凭れに寄りかかりながら腕を組んで深く息を吐き出す。
「また、奴らか……」
「ここまで来ると清々しさすら覚えます」
「寧ろ見易いじゃねえか」
「分かってしまえば後はまとめて潰すだけネ」
呆れた声の中にやる気に満ち溢れる声。
「前述の通り、どんな術を使ったのか知らないが各国はこれを大きな問題として取り上げないどころか現在進行形で住民が被害を受けても尚軽視している始末だ。そこに悪辣な神々が関与しているのはほぼ間違いないだろう」
ロックマンが言うとパックマンは小さく舌を打ち、半ば苛立った様子で頬杖を付きながら。
「大体、光と闇の化身の双子を自分たちが管理するとか言い出した時点で怪しかったんだよ。あのクソ神どもが悪用しないはずないじゃん」
そうだそうだ、と同意する声。
「今度こそ始末を付けてやらなきゃな」
「これ以上あいつらの好きなようにはさせん!」
「決着をつけましょう!」
「ちょっ」
「ぼっこぼこにしちゃおうよー!」
「腕が鳴るぜ──」
「ちょっと待って!」
椅子を返す勢いで立ち上がったのは。
「……ルフレ……?」
急な物音と大声に室内が静まり返る中でテーブルの上に両手を突きながら顔を顰めて立つルフレの姿がそこにあった。隣に座っていたマークが呆気に取られた様子で名前を口に出せばルフレはぴくりと肩を跳ねた後で語り出す。
「だ……ダークシャドウは、X部隊と深い関わりがあったはずよ」
他の誰も沈黙する中で冷や汗を滲ませながら。
「このまま私たちの独断で動けば事態を知らずに交流しているX部隊に対してどんな仕打ちがあるのか分からない。まずは冷静に──彼らX部隊をダークシャドウから遠ざけるべきではないかしら」
心臓の音が耳に障る。
「ど、」
「それもそうだね」
納得したようにシュルクが頷けばマークは反射的に口を噤んだ。
「皆も少し冷静になろうよ!」
シュルクが後押しすると張り詰めた緊張の糸が緩むような空気の変化というものを感じてルフレはゆっくりと椅子に腰を下ろしながら密かに小さく息をついた。それでもマークだけは彼女に対して訝しむような視線を注いでいたがその内に話す声が静まると見計らったように。
「奴らの目的こそ定かではないが、だからといってこれ以上野放しにするわけにはいかない」
それだけ言うとロックマンは立ち上がった。
「どうするんだよ」
「エックス邸へ向かう。……マーク、ルフレ」
マークに続けてルフレも立ち上がる。
「万が一鉢合わせないとも限らないからな」
「急すぎない?」
「急を要する事だろう。お前も来い」
ええぇ、とパックマンは苦そうな表情。
「各自達成していない依頼や任務があれば書類をしずえに預けなさい。しずえは書類をまとめてコピーしたらマークとルフレに。それから──」
順々に的確な指示を出していたのも束の間。
「!」
……着信音。
「はい」
鳴ったのはロックマンの端末である。着信の相手を確認するなり片手を軽く挙げて制しながら電話に応答すること数分。
「……急用が入った」
「いつものね」
「お前も付いてこい」
「一人で行けばいいじゃん……」
パックマンは渋々と立ち上がると既に会議室の扉のドアノブに手を掛けるロックマンの元へ。
「マーク。ルフレ」
おもむろに扉を開きながら。
「午後三時に司令塔前の広場で合流しよう」
「……分かった」