スマ学200のお題
95.呼び方
カリカリとペンを書く音が静かな空間の中響く。今日という日は特別でもないのに誰より珍しく真面目に仕事に取り組む教頭のクレイジーだったが当然この学園の今後に関して考えているというはずもなく心ここに在らずといったところで。
ぼんやりと思う。
呼び方、変えた方がいいかなぁ……
兄弟とは一概に言っても色んな呼び方があると思う。定番のお兄ちゃん呼びから途端に時代を感じさせる兄上、兄者。
漢らしさ溢れる兄貴。窺えるのは育ちの良さかはたまた嫌みかといった呼び方のお兄さま。やんちゃ感のある兄ちゃん。
もちろん今の呼び方も年相応だし悪くはないのだが気分転換は必要だと思う。
いわゆるマンネリ回避、というやつで。
対する兄はいつもと変わらぬ厚みのある椅子に腰掛けてデスクと向き合い校長としての仕事に取り組んでいる。幸いにも思いついたのが二人以外の誰もいない校長室であったので試すには最適だった。
「兄貴」
……返事がない。
「兄者」
物を書く音が止まない。集中しているのかはたまた無視を決め込んでいるのか、とにかくクレイジーは口を結ぶとそっと立ち上がり後ろに回り込んで。それでも書く手を止めないのだからクレイジーはその時眉をひそめてしまいながらも耳に唇を寄せて呟いた。
「……お兄ちゃん」
無反応。
これはあれか。もう兄さんと呼ばれる以外に自分が呼ばれているものだとは認識すらしてやらないつもりなんだな。
ただならぬ拘りというか意地に完敗いや乾杯。小さく息をついたその時。
「クレイジー」
その人は小さく呼んで。
「……冗談でもその呼び方は良くない」
髪の毛の隙間から窺える耳がほんの少し赤みを帯びていたのは。
「照れてんの? お兄ちゃ」
「うるさい」