スマ学200のお題


66.兄妹



私の視点から言わせてみれば。

兄さんは。似ていない。


『――間もなく発車します。閉まるドアに、お気をつけください』
「座れてよかったわね」
「生徒会の会議で疲れたからな」

乗車口の傍ら、二人掛けの席に兄のマークと並んで座り、ルフレは通学用鞄を膝の上へ。次の駅まで五分ほどかかる。それまで小説を読もうと思った矢先。

「くそっ」

柄の悪そうな男子高生の声が聞こえた。

「あの席狙ってたのに、あのジジイ」
「どうせ、長くないでしょ」
「死ねっつの」

果たして座る席程度の問題でそこまで腹を立てるだろうか。たまたま、虫の居所が悪かったのかはたまた周りを怯えさせようと悪ぶっているのか。どちらにしたってそんな大きな声で、話を合わせる女子高生の方も、私はどうかと思うけど。

「ジジイは優先席にでも座ってろって」

……成る程。

普通の席が良いけれど、空いてないから仕方なく優先席に座っていたわけか。


「すみません」


ひと声。ルフレが顔を上げると兄のマークは隣に居なかった。

「優先席に座っているのが嫌なら、二人掛けの席を譲りましょうか。僕たちは次の駅で下りますから」

男子高生と女子高生が顔を見合わせた。

「……じゃあ」
「いや、僕たちはこのまま立ってますよ」

マークは珍しく、笑みのひとつもこぼさずに言った。

「貴方たちのような心ない人が座った後の席なんか嫌なので」


五分後。


『――駅です。ご乗車の方は……』
「本当にすまない。居づらかったよな……」
「どうして兄さんが謝るのよ。悪いことなんてしてないじゃない」
「謝らせておいてくれ……」

前言撤回。毒を吐いた後のこの弱々しい感じ。

「……似てる」
「えっ?」
 
 
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