スマ学200のお題


49.嫉妬



僕の兄さんは嫉妬してくれない。

たまに生徒から意味深な手紙を渡されたりすることもあるけど、僕が断るのを知ってか知らずか「よかったじゃないか」なんてからかうだけでつまんない。


「へえー教頭ってその人のこと好きなんだ?」

クレイジーはびくっと肩を跳ねさせた。後ろから携帯の画面を覗き込んできたのはダークフォックスである。ちなみにここは屋上、昼休みなので開放されているのだがその間は生徒も出入り自由なことを何故かすっかり忘れていた。

「……まあ」

実はすっごい好き。クレイジーが眺めていたのは某有名サイトの動画で、いわゆる歌ってみたというやつだった。どうにもこの歌い手、とやらの声が耳に残って仕方ない。兄さんには悪いけどぞくぞくして、心臓が踊るように跳ねる。

「分かる分かる。神だよなぁ、その人の歌声!」

その物言いは少し大袈裟な気もしたが、皆が言っていることだし間違ってはいないと思う。自分も似たような書き込みをする予定だったし。

「男だけどさ、耳レイプっての。何か分かる気がするわ」
「あー孕むってやつ?」
「そうそう!」

クレイジーと一緒に屋上に来ていたマスターは缶コーヒーをひと口。

「もう何から何まで神がかってるよな! ほんと尊敬」
「くだらないな」

突如として口を挟む、マスター。

「神、だと? 人間風情が」

嘲るように笑って、最後刺々しく言い放つ。


「――神はこの俺だけで十分だ」


沈黙。

「お前もそういうつまらないものに時間を絶やすな」
「兄さん、なに怒ってんの?」
「怒ってないさ。お前の今後の為に注意を促したまでだ」

――嫉妬だ。

疑問符を浮かべるクレイジーの傍で、ダークフォックスはくすくすと笑っていた。
 
 
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