スマ学200のお題


154.方言



「そういえばさぁ」

昼休み。すま組を出てすぐの廊下にて。

「お前なんで標準語なんだ?」
「ぶふっ」


飲んでいた牛乳を噴き出すところだった。


「な、……は」

突拍子もない質問にあからさまな挙動不審の態度を取ったのはディディーである。質問を投げかけたトゥーンは当然悪怯れる様子もなくそもそも彼が紙パックの牛乳を動揺のあまり半分ほど潰して噴き出しかけたことなど気付いていないようで。

「方言って結構な武器じゃね?」

ディディーの出身地であるコンゴ・ボンゴ島は言語に特有の訛りがある。いわゆる関西弁なのだが兄のドンキーはベタベタに訛っているにも関わらずその弟たる彼は至って普通の標準語。取り分けて問題はないがどうして違いがあるものか分からない。意図的に標準語に正しているのだろうがその理由もメリットも一切不明。今はどうだか知らねーけど一時期方言男子だの方言女子だのってバラエティ番組でも取り上げられてたのに、とトゥーン。

「い、いいんだよ」

ディディーは何故だかきまりが悪そうに。

「需要ねーし」
「ハンデのつもりかよ」
「そ……そんなんじゃなくて」
「二人ともー!」


この声は。


「ピチカ」

紛うことなき我らが想い人。ぱっと顔を向けるディディーとトゥーンに大きく手を振りながら彼女が廊下を走ってくる。どちらがどちらとも俺に用事だなと要らぬ驕りを抱きながら待っていると彼女の手前を歩いていた男子生徒二人組の内一人が何を閃いたのやらニヤニヤと笑いながら。

「きゃぁっ!?」

走るピチカに差し出した足を引っ掛ける──愚行。

「おい!?」

慌てて飛び出したトゥーンが抱き止めてくれたお陰で転倒の事態は免れたものの、肝心の男子生徒はというとこれまた悪怯れる様子もなく。

「あーあ」

軽薄に。意地の悪い笑みを浮かべながら。

「パンツ見れると思ったのに──」


前方不注意。


「おわっ!」

足払いを受けた男子生徒はその場に尻餅。何をするんだと睨みあげるよりも先に暗い影が差せば視線の先のその彼に冷や汗が垂れる。

「おもんないねん」

ディディーは頬に青筋を浮かべて見下しながら。

「センスないバカ餓鬼は喋んなや」


ひえぇ……


「大丈夫だったか?」

男子生徒二人が尻尾を巻いて逃げていくその背を最後まで見送るでもなくぱっと表情も声音もいつものそれに戻って振り返るディディーに。

「お、お前こそ大丈夫かよ」
「えっ?」
「すごい迫力だったよ……」

事態に気付いた瞬間からみるみる内に口内が乾いて羞恥心を示すゲージが急上昇。反射的に片手で口を覆い隠しながら目を背けて小さな声でぽつり。

「……忘れて」


おいおいおいおい。


「お前それやっぱ禁止な」
「、へ?」
「次やったら絶交だから」
「そんなに?」

方言男子の威力は凄まじい。
 
 
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