スマ学200のお題
148.意味
二月十四日──世間が特別スペシャルデイなんて称する今日この日は思春期の男女御用達の超特大イベント、バレンタインデー。
本来であれば身勝手な理由での私物の持ち込みは禁止とされているが暗黙の了解といったところで先生方の目も生徒会一同による抜き打ち持ち物検査も心なしか緩くなる──誰もが朝の下駄箱や机の中、移動教室から戻った後の鞄の中に変化がないものかと洋菓子よりも甘い期待を抱いているというわけだ。
いやはや。いじらしいことじゃないですか。
陰キャオタクには無縁ですけど?
「後で渡したいものあるんだけど」
放課後。
「ガトーショコラがいいな」
「べ、別にチョコレートとは言ってませんけど」
「今日この日に限って見当違いとは恐れ入る」
「すぐそういう言い方するじゃん……」
あっちでもこっちでも。
「こっちが……私の、よね」
「リボンの色は合っているかい?」
「念の為に写真は撮っておいたから確認するわ」
「……何してるの?」
「しっ……! なんでもないよ!」
忙しのないことで。……
「はぁ……」
賑わう教室から足早に退散して最後の望みたる下駄箱を覗いてみたが案の定全敗。そりゃまあモテるような性格でも容姿でも御座いませんけど、なんて周囲に誰もいないことをいいことに溜め息を吐き出すのはミカゲだった。
いや別に。期待して──なくはなかったけど、それでもせめて義理だけでも恵んでもらいたかったみたいなところないですか(小並感)。皆さんちょっと一途すぎませんか(爆発しろ)。今日に限って部活が休みのせいで女子部員による義理チョコ配布イベントみたいな救済措置もなかったしバレンタイン関連のスレッドは見ないようにしよう……
「ミカゲ」
なんて考えていれば。
「!」
今日一番会いたくない人に呼び止められて草も生えないとかいう特大オチ。
「な、何用で御座るか」
昇降口を出ようとしたタイミングで声を掛けてきたその相手はジョーカーだった。恋仲なら最後の頼みの綱ってやつだろう素直になれよなんて囃し立てる声が耳を突いて痛いですがメンヘラ気質の同志なら分かってくれるはず。
何せ、奴はモテるのである。ともなれば今日この日に誰かしらからチョコレートを筆頭とした洋菓子の類いを受け取っていないはずもない──つまり他の誰かからそういう想いを告げられた証拠を所持しているのを見たくないのだ。メンヘラ乙!
「渡したいものが」
「断固拒否」
「どうしても?」
「今ちょっと視界に入れたくないので」
ちなみに後ろから話しかけられている。
「そうか」
……諦めてくれた?
「では」
「じゃあ目を瞑って」
ンンンンンンンンン。
これでも幾らか譲渡してくれた方なのだろう。流石にこればかりは自分の都合に付き合わせているわけだし徹底して断るのも気が引ける。
「……三秒間だけで御座る」
ミカゲはそう言って瞼を瞑る。
足音が迫る。真後ろ。
鞄の中にそっと忍ばせてくるつもりだろうか。
「、……っ、」
なんて予想を裏切ったのは。
この次の瞬間に唇を重ねられたからで。
「……!?」
しかもなんか。
なんか食べさせられた。
「また明日」
え、何──そう思って瞼を開けば一人で歩いて下校していく奴の後ろ姿。口をもごもごとさせながら味や形で何を少しばかり濃厚な接吻のついでに口内に押し込まれたものかと思考──程なく察する。
あめ、アメ、飴。
……その意味といえば。
「わ、ミカゲ?」
昇降口を出てすぐの脇で屈み込んでいるところをマークとシュルクに発見されたミカゲは今日誰よりもその顔を赤くしていたのだとか何とか。