スマ学200のお題
128.特等席
季節が冬から春へと移り変わる時、最初に吹く強い南風のことを春一番と呼ぶのはご存知だろうか。春の訪れを告げる風ということで暖かく穏やかなイメージを持つ方も多いだろうが実際は春の嵐をもたらすほどに危険な強風なので。
「うわー!?」
ご覧の有り様である。
「今飛んでいったのって」
「ピットだな」
朝。登校していたマルスとロイは強風の犠牲者を目に苦笑い。
「おはようございます」
「お、……はようございます……」
正門で挨拶運動中のロックマンもこの通り。
「……凄い頭だったね」
いつも以上に髪型がてんやわんや。
「ロイ?」
正門を抜けてすぐロイはマルスの腕を掴むと足早に歩き始めた。まだ朝礼が始まるには余裕があるというのに何を急いでいるんだろう。
「見せたいものがあるんだ」
「えっ?」
桜の季節ではないし。
「昨日の帰りに見つけたんだよ」
見つけたばかりということは。
それを真っ先に僕に見せたいということは。
特別。
「マルス?」
気付けば茂みの中である。
「へっ!?」
「し、しー!」
ロイは声を潜めて人差し指を立てる。
「何が始まるんだい?」
「見とけって」
朝から。
彼はどんな景色を僕に見せるつもりで──
「きゃあっ!」
突風。
「……見えた?」
ロイはにやにやと笑いながら振り返る。
「うん」
上がった体温が急低下。
「白だったね」
「特等席。いいだろ?」
うん。
「どあっ!?」
視界反転。
「ぇあ、ちょっとマルス、さん?」
「……そうだね」
ロイを押し倒したマルスはにっこり。
「ここなら誰にも見つからないね?」
「そ、そういうつもりで教え、」
期待した僕が馬鹿だった。
「──んぐっ!?」
マルスにたっぷりと仕置きを受けて。
揃いも揃って遅刻したのは言うまでもない話。