スマ学200のお題
124.常識
二月十四日。言わずもがな。
「ねーねー会長さん?」
エス組の教室。行儀悪くも机の上に腰掛けてそれまで読書をしていたロックマンにいつもの調子で絡んだのはパックマンである。
「今朝、チョコレートあげたじゃん?」
ぷらぷらと足を揺らしながら、
「あれから増えたぁ?」
これだけ調子付いた様子で絡むのは当然のこと、自分がバレンタインデーというこの日に他の女子からチョコレートを頂いたからである。
「……増えていないが」
ロックマンは息をついて本を畳んで見上げる。
「へー。パックマンは」
「本命以外から貰ってどうするんだ」
きょとんと。
「期待させるだけさせて応えられないのだったら相手にとっても苦いだけだろう」
そうだ。コイツ、こういうヤツだった。
「こ、コンビニで買ったやつなんだけど」
「重要なのは"誰に貰ったか"だろう?」
みるみる内に顔が熱くなる。
「それよりも俺は気持ちに応えられもしないのに簡単に貰い受けて浴びる黄色い声を賛辞と勘違いしてる連中の方が不思議でならないな」
注意。ロックマンは至極真面目である。
「本命がいるのなら尚のこと。安請け合いすることで相手を不安にさせてしまうかもしれないのに浮かれるばかりで気が回らないなど」
「ストップストップ」
時既に遅し。
「シュルク……僕を殴ってくれ……」
「き、急にどうしたんだよマーク!」
丸聞こえのマーク。机に伏せながら負のオーラ。
「不甲斐ないばかりで、本当に……どう詫びたらいいのか……」
学年テストでは毎度上位に君臨する頭の良さと男女共に唸る眉目秀麗、運動能力については目を瞑るにしても兄属性持ちの優男と来たものだ。モテないはずもなければこのシーズン暇があるはずもなく既に幾つもチョコレートを頂戴した後で。
「マークは何を落ち込んでいるんだ?」
「お前が変なこと言うからだろ」
「? 常識だろう」
「うぐぅッッ」
一時限分丸々マークが落ち込んだのは言うまでもない。