スマ学200のお題
100.バウリンガル
バウリンガルとは。本体と犬の首輪に装着するワイヤレスマイクから構成される、とある会社が開発したコミュニケーションツールである。
使い方は簡単。マイクで捕らえた犬の鳴き声を本体に転送しリアルタイムで分析したのち翻訳された感情表現を本体の液晶画面に表示。愛犬を愛してやまない飼い主たちが最も気軽に意思疎通が図れるという優れものなのだ。
「わんっ!」
この学園に犬はいない。
「うわ……本当に認識したよ」
此処はすま組の教室。
もちろん誰かがこっそりとペットを連れ込んでいるという話でもなく実際のところは冒頭で説明したバウリンガルを何故かリオンが首に掛けられた首輪に装着しているのである。
「しかも喜んでるし」
「てーか尻尾振ってるし」
机の上に並んで腰を下ろすカービィとロイは、その足下できらきらと目を輝かせて尻尾を振り回すリオンに揃って溜め息。鳴けど吠えど喜びの感情しか表示されないのではつまらない。
「類を見ない犬扱い……何というサプライズ……このまま、貴方の犬になりたい……」
「冗談でも要らないから」
「私は本気です」
「いらないって」
ガラッ。
「おー飼い主が来たか」
と。教室に入ってきたのはユウである。続けて気付いたリオンがすかさず辺りにハートを撒き散らしながら彼に飛びつく。
「わんわん!」
「朝から鬱陶しい。……なんだその首輪は」
ユウは顔を顰めて首輪に指を掛ける。
「いつから貴様は他のヤツの犬になったんだ」
ピロリピロリン。
「……?」
カービィが手に持っている本体の液晶画面に表示されたのは威嚇や悲しいといった感情。
「私は……貴方の犬です……」
「さっさと離れろ」
バウリンガル。
素直じゃない相手にいかが?
「今度はお前が付け」
「やだ」